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  • 新年特集号第1部 新春トップ座談会 持続的成長へ正念場
  • 2023年1月1日
     2023年がスタートした。化学産業はコロナ禍でも得意とする高機能材料でグローバルに稼ぐ実力を一定に証明してみせているが、加速度的に変化する世界にあって絶え間ない新陳代謝によって持続的な成長を果たせるのか正念場の年となる。一方で循環型社会やカーボンニュートラル(CN)の実現に向け、貢献できる技術の開発を加速させると同時に、いよいよ企業や業界の枠を越えた連携を具体化させる必要に迫られている。大きな転換点を迎えるなか、日本の化学業界を代表する5社のトップに展望を語ってもらった。

     (司会=化学工業日報社・渡邉康広取締役編集局長)

     <出席者>

     旭化成 工藤幸四郎社長

     住友化学 岩田圭一社長

     三井化学 橋本修社長

     三菱ケミカルグループ ジョンマーク・ギルソン社長

     レゾナック 髙橋秀仁社長

     <改革の手応えと課題>

    • 岩田氏
      岩田氏
     岩田 医農薬、新たな基盤技術必要

     工藤 グリーン化はマテリアル中核

     橋本 コモディティの収益力底上げ

     日本の化学企業はリーマン・ショック以降、付加価値の高いスペシャリティケミカルへシフトする事業ポートフォリオ改革を進め、稼ぐ力を磨いてきました。これまでの改革の手応えと今後の課題は何か、聞かせて下さい。

     岩田 リーマン・ショック以降という話だが、もっと長いスパンで振り返ると、石油化学などの汎用事業については1983年に特定産業構造改善臨時措置法(産構法)が施行され、化学各社の過剰設備の統廃合が進んだ。各社はその後40年間、差別化が困難な汎用事業から高付加価値製品へのシフトにそれぞれのアプローチで取り組んできた経緯がある。

     当社においては2分野に注力してきた。1つは医薬・農薬のライフサイエンス分野だ。クリティカル・マスの確保やグローバル・フットプリントの強化が必須と考え、ここ10年で、海外を中心に医薬に約7500億円、農薬に約1800億円を投資した。もう1つが、ICTや電池関連などの高機能材料分野で、自らの技術次第で新しい成長を作り出せる市場と捉えて育成してきた。その結果、スペシャリティの売上高が全体の3分の2を占めるなど、ポートフォリオ改革が大きく進展している。

     今後の課題は、医薬・農薬は新剤開発の難度が上がることから、コストが巨額化し時間も要するようになること。新たな共通基盤としてバイオや合成生物学が重要になり、それを用いた再生細胞、非化学農薬などを拡大していく。高機能材料は継続的な技術革新に加え、地政学リスク、CNにも留意する必要が出てくる。

     工藤 旭化成は昨年、創業100周年を迎え、改めてその歴史を振り返るとポートフォリオ変革の連続であり、新陳代謝を活性化して変革を起こしながら成長を続けてきた。とくに2010年代からは12年に救命救急医療機器事業の米ゾール社を買収したのを機にM&A(合併・買収)を積極化し、1000億円を超えるM&Aをゾール以外にも3件実行した。世界が大きく変化するなかでポートフォリオを変革することが、私の最大のミッションと考えている。

     現在、マテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域で事業を展開しているが、それぞれ役割が異なる。ヘルスケアは成長ドライバーで30年頃に売上高と収益が最大の領域になる計画だ。一方、住宅はハイエンド戦略を追求しキャッシュの創出を担う。

     課題はマテリアル領域だ。いま、お話にあがった石油化学がここに含まれ、いかに収益性を高められるか、ポートフォリオ改革の中心となる。ただ、社会から求められるグリーン化に向けて技術のイノベーションを起こすのはマテリアル領域が中核と確信している。技術を磨き、早期に具現化していく。

     髙橋 私は15年に当社に加わったが、当時は川上分野の差別化の難しい素材しか製品群になかった。グローバル化も進んでいなかった。そこでポートフォリオ改革として、独SGLカーボンの黒鉛電極事業や、半導体関連に強い日立化成を買収した。日立化成の買収は統合作業を進め、本日から新生「レゾナック」となり完全統合を果たすことができた。買収直後は純負債資本倍率(ネットDEレシオ)が1・9程まで上がったが、その後、事業売却などを行い、足元1・1~1・2程度に改善している。私が加わった時点のレベルまで戻り、ポートフォリオは格段に良くなった。

     次のステージは半導体にかけると宣言している。半導体の前工程、後工程材料、ハードディスク、次世代パワー半導体材料のSiC(炭化ケイ素)エピウエハーを1つのセグメントとし、現状の約3900億円から年平均成長率(CAGR)10%弱で伸ばす計画だ。半導体市場は足元のサイクルは良くないが、年率6~7%程度で拡大する。さらに材料の大型化で後工程材料の使用量の増加が見込める。伸びる市場で需要を取り込み成長する。

     橋本 三井化学グループはリーマン・ショック後に厳しい経営状況が続き、14年に組織体制をマーケットイン型に改めて、事業ポートフォリオも成長領域とコモディティ領域に組み替えた。コモディティ事業領域の再構築と、成長事業領域での積極投資を遂行した結果、営業利益で13年度時点はコモディティ事業領域7割、成長事業領域3割だったのが、22年度コア営業利益見通しで成長事業領域8割、コモディティ事業領域2割まで転換が図れている。

     将来に向けて、30年をターゲットとする長期経営計画を策定し、その達成に向けてソリューションとサーキュレーションを意識した新しいビジネスモデルを構築し付加価値を高める方針。あわせてコモディティ事業領域の収益力の底上げ完遂もポイントになる。コモディティ事業領域はウレタン事業の再構築が懸案として残っているがゴールはみえてきた。実行後はより安定した事業ポートフォリオに転換でき、次の成長段階に移行するタイミングと考えている。

     また、三井化学は1912年に大牟田工場で石炭化学を立ち上げ、58年に岩国大竹工場で石油化学を事業化した。現在はグリーンケミカル化という第3の波に対して、化石原料からの転換やCO2排出量の削減を目指しており、その実現が今後の課題となる。

     ギルソン CNの実現に向けて化学業界も大きな変革を求められるなか、当社もそうした社会変化の観点から事業ポートフォリオを見直した。これまで多くの買収で業容を拡大してきたが、そのなかで非効率な事業や、市場で先導的なポジションを確立できていない事業もあった。ポートフォリオの変革では、社会や未来、CNとの適合性、市場の成長性、当社がベストオーナーかといった基準で事業を選別した。強みの人材や知財を生かし、価値や変化を生み出せる領域として、機能商品、産業ガス、ファーマを位置づけた一方、石化・炭素は、分離・再編が必要だと判断した。検討を終え、ここからは実行の時だ。今後3年間でやるべき施策を断行する。

     そしてMMA(メチルメタクリレート)も多くの商機がある。現時点ではコモディティのビジネスで汎用性が高いが、競争優位性を磨けば差異化を追求することができる。フルスピードで戦略を推し進める。

     今後、業績の上がり下がりはあるかもしれないが、基本的な方向性としては世界の変化、市場の将来性、当社の強みにフィットした形にしていく。

     <カーボンニュートラル>

    • 橋本氏
      橋本氏
     橋本 業種や地域を越え連携へ

     髙橋 技術享受できる仕組みに

     ギルソン コストや化学の役割啓発

     ポートフォリオ改革の課題として石油化学事業の変革が残っています。CNに適合するあるべき姿をどう考え、そこに向けてどのような変革が求められますか。

     橋本 50年にCNを目標に掲げているが、一企業でやることのほか、外部と連携しなければいけないこと、さらに社会そのものが変わらなければ進まないこと、これら3点が揃うことが必要であると思う。個社でできることは取り組んでいるが、いざ本格的に実行するとなると相当な投資額がかかる。それを回収できる社会システムが存在することが重要だ。コストが上昇する分を吸収できるだけのさまざまな連携によるエコシステム、またはカーボンプライシングや税といった社会システムが整備されるかが大きなポイントであろう。経済性が成立しなければブームで終わってしまう。そこを見極めながら実行していきたい。

     大型投資に向けては化学各社との連携、さらに業種を越えた連携も考えられる。CNは最終的にアカデミア、地域や国も一緒になって推進していく流れになるだろう。

     工藤 当社も50年にCNを宣言しているが、50年に一斉にCNはあり得ないので、道筋をかなり前に決めなければ実現は難しい。まず重要なことは、われわれ自身がいかに脱炭素に向けて走れるかだ。化学産業は産業界のなかでGHG排出量が鉄鋼に次いで多く、ネガティブに受け取られる傾向にあり、自らGHGを削減する必要がある。先ほど申し上げたが、イノベーションの発出で化学産業は社会貢献できるポテンシャルが高い。

     当社でも研究開発のエースを投入し、グループ全体の最大の課題として活動している。しかし、個社だけでなく、他企業とどう協業するか、政府との協議などもある。そこで大きなシナリオを描くことは大事だが、シナリオづくりに注力して時間がかかり過ぎるきらいがある。スタートラインに立つのが遅くなると達成も遅くなるリスクがあり、ある程度トライ&エラーで進める必要がある。

     髙橋 おっしゃる通り、やはり1社では何もできない規模の話で、誰かが音頭をとらないといけない。コンビナート関連でグリーンアンモニアや水素など共同ターミナルを建設するといった議題があるが、それを自発的にやるのは厳しい。自治体のイニシアチブが不可欠になると思う。

     また、各社が懸命に技術開発していて当社も廃プラのガス化ケミカルリサイクルや低濃度二酸化炭素を回収して化学品にするといった研究開発に着手している。現時点で競争力のある技術がどれかはまったくわからないが、今後、勝ち筋がみえてくるはずだ。その時にどういうフォーメーションにするか早めに議論したい。技術力で勝った企業が優れているのではなく、それは公共財になる。ただ乗りしないスキームをどうつくるかの前提のうえで、技術開発に成功した企業だけがもうけるのではなく、皆が享受できるコンセンサスを持つべきではないか。

     ギルソン われわれはいま新しい産業革命に直面している。これまでの産業革命と今回のそれとは異なる。例えば、ボイラーを新しいものに変える場合、従来は生産性が向上したが、これからは環境負荷低減が主目的になり必ずしも生産性が向上するとは限らない。それゆえ、コストが上昇することを人々に提示しなければならない。単なるエネルギー転換ではない。石化で安いプラスチックの時代は終わったということだ。完全にグリーンな電気炉に転換もできるが、コストがかかる。同じ材料でも高くなる。そのことを人々にしっかり理解してもらわないといけない。

     その一方、大きな商機でもある。エネルギー転換に対応するため、多くのバッテリーが必要となる。風力発電所やEVが増え、そこには多くの化学製品が使用される。エネルギー転換により化学製品の需要が増加する。エネルギー転換は、化学製品なしでは成し得ないことを世の中にしっかり伝えないといけない。

     岩田 50年のCNに至るまでの「時間軸」をしっかり意識することも重要だ。30年までは、いまの世の中にある最高レベルの技術を利用して排出削減に努めると同時に、CNに資する次世代技術の開発を進める。そして、その新技術を30年以降に順次社会実装していく。この2つの軸で考えないといけないだろう。また、50年のCN時に化学プラントがどうあるべきか。燃料は再生可能エネルギーによる電化やクリーンな水素・アンモニア等への転換、原料ではケミカルリサイクルやバイオマス等の活用を増やすことで炭素循環を進め、CN化を目指すことになる。そうした最終の姿をイメージし、原料事情や川下の誘導品の状況といったコンビナートごとの特性を考慮しつつ議論することでコンビナートの再設計を進めていくのが次のステップと考える。

     <ナフサクラッカーの将来>

    • 工藤氏
      工藤氏
     工藤 誘導品の収益性など考慮

     岩田 協業を含め多様な選択肢

     ギルソン 政府と集約・再編を検討

     各地に分散し老朽化も進むナフサクラッカーの将来のあるべき姿をどう考えますか。

     岩田 CNの50年の国内エチレン供給量は、人口減少等を加味すると450万トン程度、そのうちリサイクル含むナフサ由来ではないプラスチック原料が20~30%を占めるのではないか。一方、供給面では中国の石化プラントの大幅な新増設があり、中長期でみると、アジア市場がより供給過多に向かう。国内の石化コンビナートは海外に比べて規模が小さく、そして経年劣化が進んでおり、維持投資額も増えてくる。競争力維持のため、他社との協業を含めさまざまな選択肢を視野に是々非々で検討する必要がある。

     工藤 いまお話いただいた通り総論は共通認識で、そこをベースにどう考えるか。修繕費用や需給バランスの観点で、このままでいけないと結論づけて良いだろう。しかし、経済安全保障をどう考えるかの課題も出てくる。その時にナフサ分解炉を軸に検討するのと、もう1つは誘導品の収益性をどう考えるかの2軸がある。各社で思惑は異なるため、譲り合いながら議論をしていくことも重要だろう。

     髙橋 石化事業は、株式市場の評価が非常に厳しい。しかし、国にとって経済安全保障上も内需を賄う意味でもエチレンは必要で、そういった意味から私はかねて公共事業と話している。石化のベストオーナーについての解は、違うところにあると考えている。私は業界再編の議論の場があれば参加する用意はある。社員のためにも将来のためにも国のためにも、あるべき姿に動くと良いと思っている。

     ギルソン 石化業界の再編に関して、やはり12基を維持することはできず、大きな統合が今後必要になるだろう。水平、垂直、さまざまな選択肢をオープンに議論したい。全体論についても、政府とともに集約、再編を検討していきたい。

     橋本 みなさんおっしゃっていたが、50年のCNの時代に適合したコンビナート像、石化事業のあり様を考えることが重要だ。コンビナートの性質上、地域で連携して取り組むことが最も効果が期待できると考える。効果が出たら次のステップとして、コンビナート間での連携を図っていくこともあるだろう。誘導品で差別化して、そこに重きをなしている会社もあれば、ナフサ分解炉の合理性で利益を出している会社もある。各社各様のメリット・デメリットがあるので、そこをどうやって最大公約数的にウィンウィンの関係を構築していくかが重要だ。

     <ハイテク分野で米中分断>

    • 髙橋氏
      髙橋氏
     髙橋 半導体製造に日本不可欠

     橋本 よりシンプルにSC構築

     岩田 米中それぞれの戦略必要

     ハイテク分野における米中分断がもたらす影響およびリスクを、どう考え、どう対応しますか。

     髙橋 半導体分野でいうと、とくに米国は日本なくして半導体を製造できるとは思っていない。韓国勢も同様で日本が半導体の製造に不可欠な存在だと捉えている。今後、ある種のブロック化が進むだろう。日本、韓国、米国は半導体分野では友好関係で、中国は単独の市場になる。そこで注意すべきは中国を閉鎖的な市場にし、サプライチェーンを複雑にしないことだ。中国は中国内で完結し、国境を越えずに事業できる体制にしていく。ただ材料メーカーなので、顧客ニーズのあるところで全方位で事業をするのが原則と考えている。

     工藤 分断化、ブロック化の流れは間違いない。米国を中心としたグルーピングに進むのも確実だ。ただ、当社は材料メーカーで、製品力を磨き続けていけば、どこに工場ができても購入してもらえるだろう。むしろリスクの高低は別として、確率は低いかもしれないが、米国と中国の経済的な関係が将来緩和した場合に逆のリスクが生じないか、また、欧州でブロック化が進み、欧州の環境問題の動向によって厳しい事業環境に陥らないかなど、現況よりも先行して想定しておく必要がある。

     橋本 今回の分断は半導体にも関わるし、ヘルスケアなど他の事業でも影響を受けそうな分野がある。これまで自由主義経済のなかで、かなり複雑なサプライチェーンを組んできたが、分断などを見極めてきめ細やかに精査してシンプルにサプライチェーンを構築する重要性が増している。中国そのものは市場が非常に大きく需要がある。中国自体で完結するビジネスモデル、サプライチェーンを整備する必要性を感じる。

     岩田 サプライチェーンのなかで原材料の調達先の確保、製品の安定供給などに一定の影響やリスクが想定される。個社としては各国の法令や取り決めに従いながら、安定供給を維持できるようにサプライチェーンの強靭化、レジリエンスを高めていくしかない。米中対立の長期化にあって、今後の日本企業に求められるのは、米国か中国かの二者択一ではなく、異なる市場、異なる技術環境に対し同時にどう対応していくか。それを実現するための戦略と組織能力を高めることが問われる。

     ギルソン エレクトロニクス・半導体は台湾、韓国、中国など周辺国に重要顧客がいる。ただ、台湾のTSMCが米国で一大プロジェクトに投資し、今後同じ動きは欧州でも起こるかもしれない。そこに対応しなければならない。現在のところ、日本のサプライヤーが顧客の事業拡大、とくに地理的拡大をフォローする、実際に投資するという動きは限定的だが、そこには大きな商機がある。チャレンジングな部分もあるが最大限取り組んでいきたい。

     <化学が支えるヘルスケア>

    • ギルソン氏
      ギルソン氏
     ギルソン 日本で新薬開発投資強化

     工藤 親和性、時機、人材が重要

     髙橋 再生・細胞医療の動向注視

     世界の人口が80億人を超えました。人々の健康と医療の進化を支える化学産業のとるべき進路と、ヘルスケアの方向性についてどう考えますか。

     岩田 当社グループの医薬関連事業は22年度で約6600億円の事業規模に成長している。今後の重点領域は3つあり、1つは創薬で、グループ会社の住友ファーマにおいてアンメットメディカルニーズに対する先端医薬の開発に取り組んでいる。主に精神神経、がん、再生医療が対象だ。もう1つが開発・製造受託(CDMO)事業で、最先端の核酸医薬、再生細胞医薬、放射線医薬原薬などに注力するほか、国内で最大規模の低分子医薬原薬も拡大していく。3つ目が診断・予防で、グループ会社の日本メジフィジックスががんや認知症などの放射性診断薬等を展開している。疾病や介護の予防は大きな社会課題であり、大きな事業機会があるとみている。

     ギルソン ファーマは日本に基盤があることが大事だが、米国にプレゼンスがなければ持続的な成長は実現できない。研究開発を行い、収益を出すためには、日本だけではなく、米国と日本で拠点を持つことが重要だ。日本の薬価制度などが国内の製薬業界を苦しめているが、創薬研究において日本は素晴らしい競争力を有している。研究者の質が良くインフラも充実している。当社も日本で新薬開発のための投資を強化したいと考えている。また、医薬品以外のヘルスケア事業であるノンファーマにも注力する。ファーマと隣接し、化学とも近い領域の食品機能材を中心とした食品関連で成長の機会を探索する。

     工藤 さまざまな企業がこの分野に参入してくるなかで化学企業としてどう攻めていくか。1つは自社の得意分野あるいは、既存ビジネスと親和性のある買収であること。2つ目は医薬事業でライセンス・インやアウトを迅速かつ機を逃さずに実行すること。そして3つ目が人材だ。今年度、バイオ医薬CDMOの米社を買収したが、彼らは大きな夢を持っていて、どこの会社に買収されればそれを果たせるのか注視していた。その期待に応えられるかが買収企業に問われる。それら3つを総合的かつシャープに考え研ぎ澄ます。それが生き残り、勝ち残りの肝だ。

     橋本 当社グループはノンファーマ中心にヘルスケアビジネスを展開している。技術は精密有機合成やバイオ、高分子といった当社のコアにある技術やリソースを生かし、M&Aを駆使しながら補完している。14年にヘルスケアを重点領域の1つに据えてスタートしたので、まだまだこれから伸ばしていく段階だ。ハードルは高いと認識しているが、例えば、歯科材料分野で子会社のサンメディカルで歯科用接着剤を手がけていたところに、独へレウス社からの歯科材料事業買収で印象材、修復材、義歯関連材が加わり、さらに整形外科メーカーの日本エム・ディ・エムへの出資といった発展のストーリー性を持ちながら広げている。こうしたストーリー性を持ったビジネスをいくつ確立できるかがポイントだと考えている。

     髙橋 昭和電工は歴史的経緯からヘルスケアやライフサイエンスを手がけてこなかったが、日立化成買収により再生・細胞医療CDMOなどが加わった。抗体医薬を中心とするバイオ医薬と再生・細胞医療CDMOは決定的に異なり、バイオ医薬は大量製造、輸送が可能であるのに対し、細胞は生モノのため装置化でスケールアップするのが容易でなく、輸送も制約が生じるため地産地消が原則といった点で難しい事業とみている。再生医療が産業として立ち上がれば、生き残る会社は2、3社だろう。動向を見極めながら展開し、ある時点で行方を判断する時期がくるだろう。

     <今年の抱負>

     工藤 進むべき方向をクリアに

     髙橋 日本式の人事制度を刷新

     ギルソン “5つの戦略”実行に集中

     橋本 新たな発想盛り込み飛躍

     岩田 環境厳しくも投資緩めず

     最後に今年の抱負をお願いします。

     工藤 昨年はウクライナ侵攻、インフレや原燃料価格の上昇、地政学的リスクの高まりなどいろいろなことが起こり、恐らく多くの事象が収束せず想定以上に進行しているのではないか。予想はほぼ当たらないなかで、高度で高水準のバランス感覚を持った経営がますます重要になる。22年は厳しい環境のなかで経営したが、23年も少なくとも上半期まではその状況が続くとみた方が良い。それに備えるのはもちろん、早ければ今年中にステークホルダーへ旭化成としてどういう方向に進むか、あるいは社会にどう対峙するか、クリアにして示したい。グループ内各事業のトップから今後の方向性を聞いているが、幸いにも24~25年に相当成長が期待できる計画が出ている。そのあたりを見据え前向きに進めていく。

     髙橋 新生レゾナックということで新しい会社ができ上がり、第2の創業と捉えている。その意味で、私は創業者と思っている。創業者として短期の数字にくよくよせず、10年後に素晴らしい会社にすることを考え、そこに集中したい。10年後にはこういう会社にしておきたいというイメージが完全に頭のなかにある。そこに向けて欠けているのは人事制度改革だ。終身雇用や新卒採用、学歴主義、年功序列といった日本式人事制度を刷新し、グローバルの一流企業のリーダーシップトレーニングやタレントマネジメント、成果を報酬に反映するといった制度を取り入れていく。

     ギルソン 今後3年間は戦略の実行に集中する。最重要事項は5つあり、1つ目は組織の簡素化だ。組織を再編・最適化し人事制度も改革して成果主導の文化にする。新しいスリムな組織についてはすでに80%実施ずみだが、さらにマーケット主導の組織にしていきたい。2つ目が石化・炭素のカーブアウトを進捗させる。3つ目はコスト削減で、25年度には年間1000億円のコスト削減を目標に掲げており、23年はこれを加速させる。4つ目は成長ドライバーとなる機能商品、産業ガス、ファーマ、そしてMMAで強固な事業基盤を整える。5つ目は投資で、何にどう使うかを見極め決定していく。

     橋本 30年に目標を定めてありたい姿、長期経営計画「VISION 2030」を策定した。そのありたい姿に向けて粛々と進めていく。社会課題解決の視点でビジネスモデルを構築する。ソリューションやサーキュレーションを機会とし、新しいビジネスを生み出して成長の駆動力をかける。今後、CO2排出量削減、インフレ、給与水準の引き上げといったコスト上昇要因がめじろ押しで、個人、会社全体の付加価値を高めなければ持続的成長は実現できない。新しいビジネスモデルを構築し、さらなる飛躍ができるよう、新しい発想も盛り込みながら邁進していきたい。

     岩田 現中期経営計画では、気候変動対応に加え、生態系保全や人々の健康促進など含めた広い視点でグリーントランスフォーメーション(GX)を捉え、稼ぐ力の強化や事業の新陳代謝を加速している。2年目となる本年も外部環境は厳しい一年となることが予想され、事業の合理化や財務体質の改善に目が向きがちだが、そういう時こそ、成長投資を緩めない。社会の地殻変動は今後も続き、そうした変化は事業の成長機会でもある。医薬の主力品「ラツーダ」の北米独占販売期間満了による業績悪化を見込んでいるが、財務規律とのバランスをとりながら、最終年度の24年度でのV字回復を目指して、個々の事業での成長戦略に着実に取り組んでいく。

     長時間ありがとうございました。

    (敬称略)
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