• 連載 環境課題
  • CFP、高まる市場の開示圧力 製品評価の新基軸に
  • 2023年5月8日
  •  <2050持続可能な未来へ CFP/1(その1)>

     カーボンフットプリント(CFP)に対する注目度が高まっている。企業ブランディングの指標などとして語られることが多かったが、昨今は金融市場や欧州の規制で企業への開示圧力が強まっていることが背景にある。国や日本化学工業協会が算定ガイドラインを制定するなど化学産業にとっても無視できない存在だ。データ連係などのインフラ整備が遅れればサプライチェーン(SC)からはじき出されたり、産業競争力の低下を招く恐れもある。二酸化炭素(CO2)排出量は、物性値や価格と並ぶ製品評価の物差しの一つとして市場で認識され始めている。【2面に関連記事】

     旭化成は独自のCFP算定システムの開発を進めている。これまでもエラストマーやエンプラなど個別製品や事業部単位で算定の仕組み作りに努めてきたが、新たに開発するのは全社標準版。車やアパレルなど顧客企業の開示要請の増加に対応し、数万点に及ぶ全社製品の算定を可能とする。「教育とのセットで社内体制を強化する」(サステナビリティ推進部)狙いで、年内の運用開始を目指す。

     CFPは商品やサービスの原材料の調達から廃棄・リサイクルにいたるまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)の排出量をCO2換算した値だ。1990年代以降、企業ブランディングや製品マーケティングで脚光を浴び、国内でも消費者向けの環境ラベルで知名度を高めた。

     旭化成が全社算定を急ぐなど、ここへ来て企業間取引の場で注目が集まるのは欧州連合(EU)が環境規制の緩い国の輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)やバッテリー規制など昨今のルール変更や規制が一因だ。前者は2027年にも輸入賦課金が課され、今秋からEUに輸出する企業は製品の排出量を報告する義務を負う。CO2排出量を開示しないと物が流通できない時代がすぐそこまで来ている。

     他方、環境NGO(非政府組織)の英CDPや主要国の金融当局による気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)もスコープ3(サプライチェーンの排出量)の算定や削減を求めている。東証プライム市場ではGHGに関する情報開示が半ば義務化された。

     市場の変化を受け、今年3月、国は企業がCFPを算定し、SC全体で見える化・削減に努められるよう算定ガイドラインを策定。日化協も「企業から喫緊の課題としてCO2の算定に特化した指針設定の要望が強まっていた」(技術部)として同部のLCIサブワーキンググループが算定ガイドラインを公表した。

     欧州が基準や規制づくりで主導権を握ろうとするなか、国のガイドラインの策定にも携わったボストンコンサルティンググループ(BCG)の長谷川晃一マネージングディレクター&パートナーはCFPに対する受け身の取り組みに警鐘を鳴らす。域内産業の保護を優先する欧州の戦略対応はもちろん、「日本やアジアで同様のルールを整備することで、中国などのプレイヤーの競争力をそぐといった産業競争力強化策も打ち出せるのではないか」と説く。

     三菱ケミカルグループはCFP算定のノウハウや知見を生かした「攻めのLCA」に転じる。同社は22年度までに三菱ケミカルの国内生産拠点全15カ所、全製品や国内外のグループ会社およそ270社で算定体制を整えた。今後は「サプライヤーや顧客、製造委託先の算定支援にも努め、SCの強化や自社製品の環境貢献の訴求に打って出る」(GX推進本部)構えだ。
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