<新時代を創る挑戦する産業人財の育成~高専教育の視点から~ チャレンジ精神育み社会貢献へ 国立高等専門学校機構・谷口功理事長>
国立高等専門学校(高専)は、全国で5万数千人の学生を有する我が国最大の工学(技術系)の人材を育成する国立高等教育機関である。
高専はすべての産業の基本になるケミカルマテリアル(化学材料)や産業の基本になるところをしっかりと支えていく。または新しい分野を切り開いていく人間を育てるところであり、社会を牽引する教育機関として、国際社会からも注目されている。2022年で60周年を迎え、これから大きく飛躍しようと思っている。
高専の基本的指針(ミッション)は4つあり、1つ目が新しい産業をつくるまたは新しい産業を担う人財の育成。次に高専教育の質の保証と国際標準化。そして、地域を活性化し、地域社会を支える人財育成。最後に世界の国々の発展、国際社会の発展に貢献する人財育成がある。
まず、高専教育の特徴だが、高校の3年分と大学の2年分の5年間一貫の教育であり、その教育課程の中で実験や実習またはコンテストを通じてアイデアを具体化できる力を育てることである。また、学生一人ひとりの特徴を理解し、個性豊かに育てるとともに産業構造の変化に対応できる理論と実践を教える高等専門教育も特徴の1つと言える。最近では、語学や社会学・経済学などのリベラルアーツ教育を取り込んでいる。
そして、高専を卒業した学生は、実験・実習・コンテストによってものづくりのセンスが磨かれ、チームワークや役割分担などを理解しており、産業界・教育界・国際社会から高く評価されている。
高専の人財育成の基本的な考えは、人々や社会の役に立つことである。そのためには「成功は失敗のもと」と心得て、失敗を恐れず、一方では、成功に慢心することなく、常に何かチャレンジし、諦めないで最後までやり遂げる。高い志と粘り強さを特徴とする高専スピリッツ(チャレンジ精神)で社会の発展・変革に貢献していくことである。
また、社会実装の教育・研究開発が重要だと考えている。科学や技術は社会に役立って真価が示され、社会を変えることができるのは技術者であり、研究開発に取り組む学生の人財育成に取り組んでいる。
AIなどの技術革新による産業構造の変化に対しても教育内容を変えている。その1つが高専発の「Society5・0型未来技術人財」育成事業である。AI・数理データサイエンスやサイバーセキュリティ、ロボット、IoTの最新基盤技術を各専門技術の高度化部分として、実践教育していく。デジタル社会を支える重要基盤である半導体分野に関しても2022年度(令和4年度)から加え、迅速に対応している。また、農水、マテリアル、エネルギー、介護・医工、防災・減災・防疫といった社会課題に対して、多様なアプローチで解決していく実践的な人財育成プログラムを開発している。
そして、新しい産業をつくるためにはアントレプレナーシップが必要であり、地域企業などと連携したアントレプレナーシップを行っている。また、金融機関や行政などと連携した社会実装社会教育を行い、ソーシャルドクター(社会のお医者さん)やイノベーター、クリエイターを社会に送り出していく。
こうした高専教育は「KOSEN Education」として、国際社会から注目されている。日本にとって地政学的に大事な国として、モンゴル・タイ・ベトナムがあり、重点的に国際交流を行ってきた。ただ、他の諸外国では高専への理解が難しいのが現実であり、高専はさまざまな科学や技術に基づいて、社会の諸課題を解決し社会を変革する、創造的で実践的なエンジニア「社会のお医者さん」を養成する教育と説明すると理解を示してくれる。また、高専の国際(海外)展開は、日本の教育を海外に出していくという意味では非常に重要であり、諸外国の技術者教育など国際社会への貢献や外交や安全保障など国策の一環だと考えている。さらに、SDGsの目標達成に沿った活動だと思っている。
最後に企業への期待として、理工系(技術職)のJOB(ジョブ)型採用の導入とともに高専卒業生の能力を考慮し、大学4年卒業生と同等の待遇をお願いしたい。