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  • ケミカルマテリアルJapan2023-ONLINE- 化学の日/化学週間記念ケミカルフォーラム hide kasuga 1896・春日秀之代表取締役
  • 2023年11月8日
     <サーキュラーエコノミー実現に向けた社会基盤の構築と実装化の具体事例 日本発の高付加価値産業を創出 hide kasuga 1896・春日秀之代表取締役>

     私は現在、事業と研究のテーマとして「環境と資源」を掲げ、サーキュラーエコノミーの実現に向け、社会基盤の構築と実装化に取り組んでいる。長野県出身の私は、春日家の家業を継ぎ、2012年に「hide kasuga 1896」(東京都港区赤坂)を創業、グループ代表として環境調和型素材をベースに、開発からマーケティングまで、一気通貫で事業展開してきた。

     春日家の家業は、1896年に創業した麻問屋にはじまり、私で4代目になる。この間に絹麻パッキン、強化繊維プラスチックなどを手掛け、今では機能性樹脂、FRP、精密機械組立事業を展開している。

     2000年に私は、大手複合材メーカーに在籍、フランスに駐在し、ポルシェのブレーキを担当した。欧州で感じたことは、ドイツのポルシェ、フランスのルイ・ヴィトンなど、最終製品にハイエンドブランドが多く存在し、コスト高の環境調和型素材が普及する土壌があることだ。

     ポルシェを機能だけで買うユーザーはいない。日本の機能中心のビジネスモデルでは限界があると当時、感じていた。今では日本で「令和モダニズム」を掲げ、豊かな文化、多様な人材の活躍、環境調和型素材の開発を進め、日本発の高付加価値産業の創出が欠かせないと考えている。

     当社グループでは素材メーカー、部品メーカー、完成品メーカーまで含めトータルソリューションで、ビジネススキームを活用し、新素材・新技術をブランディングし、マーケット展開している。信州大学に研究機関をつくり、都内の表参道に旗艦店を置き、顧客ニーズに直接触れる体制を構築した。

     こうした循環型社会の構築を生み出す取り組みは、故出井伸之ソニー元会長、小林喜光東京電力HD会長、建築家の隈研吾氏などの賛同を得ることができた次第だ。

     現在、プラスチックのリサイクルをみると、日本ではサーマルリサイクルが主流だが今後は、マテリアルリサイクルを増やすことが重要ではないだろうか。

     当社では、環境調和型ブランドの創出の一貫として、テトラフルオロエチレン(PTFE)のリサイクルを実施している。半導体製製造装置向けPTFEは、製作工程で約60%が廃材となる。これを有効利用できるリサイクル技術を19年に特許化し、運用を検討している。

     また、環境調和型ブランド「hide k 1896」では、リサイクル可能なカーボン繊維と樹脂を複合化したコンポジットテキスタイルを開発し、三越伊勢丹を中心に販売をしている。財布、バッグをはじめ、レクサスとランドセル、ライカ社とカメラ、オークラ東京とキャッシュトレイなど、数々のプロダクトを実現。家具では椅子、モビリティ分野では小型電気自動車(EV)の開発を進めている。

     トヨタ車体が開発した複合材技術をもとに開発した循環する木「トランスウッド」は、間伐材の木粉を50%、廃食用油から製造されるバイオマス樹脂を50%配合した新素材。木材では困難なリサイクルを可能にした。一般のポリプロピレンと比べ強度があり、隈研吾氏がデザインした和洋折衷の黒皿として実用化した。すでに三越、伊勢丹での販売や、オークラ東京、パレスホテル東京、帝国ホテル東京など、日本を代表するホテルで採用がスタートしている。

     プロダクト開発、販売に加え、当社グループでは、産学官連携コンソーシアム「グリーン・コンポジット・ヒルズ・バイ・hide k 1896」を立ち上げた。すでに環境調和型素材を軸としたプラスチックと二酸化炭素(CO2)の循環を体感する、アップサイクルプロジェクトを23年度から市原市と長野市で始めている。

     当社、三井化学、市原市、長野市、長野県、信州大学など教育機関を含めて連携し、将来を見据えたサーキュラーエコノミーに向けた活動になる。トランスウッドで作られたペンケースを一年で回収してベンチをつくり、その一年後にはアート作品をつくることを予定した体験型の実証試験を行っている。つねに消費者ニーズに合った製品化を進めることで、ライフスタイル市場、家具市場、建築市場、モビリティ市場、ロボット市場など幅広い分野でマーケティングをし、社会に貢献したいと思っている。
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