• 兗州煤業の楡林工場
      兗州煤業の楡林工場
     <中国の石炭化学産業 新時代へ/上>

     【楡林(陝西省)=中村幸岳】中国の石炭化学産業が新時代を迎えようとしている。グリーン水素の活用や二酸化炭素(CO2)排出原単位の小さいプロセスの導入、生分解性樹脂を含む誘導品の多様化などを通じて環境性を高め、カーボンニュートラル時代への適応を目指す。規模拡大も続き、2026年にかけて石炭ベースのオレフィン生産能力は約1000万トン増える見通し。舞台となるのは、中国随一のエネルギー資源埋蔵量を誇る西部“金三角(ゴールデントライアングル)”だ。

     ■高品質な石炭求め

     中国では、陝西省の楡林市と寧夏回族自治区東部(寧東)、内モンゴル自治区オルドス市の3カ所を結ぶ内側の地域を「エネルギー・化学産業の金三角」と呼ぶ。政府によると同地域の石炭や天然ガス、石油など一次エネルギー資源の埋蔵量は約2兆トン。中国の実に4割強を占める。

     なかでも万里の長城西端として知られる楡林は、高品質な石炭を産出することで知られる。楡林産石炭はリンなど不純物の含有率が低く発熱量も大きいうえ、含有油分が約10%と多く(通常の石炭は同2~3%)、これを分質し石油製品原料に利用できる。

     また化学品原料の合成ガス(一酸化炭素、水素)は、石炭を1200~1400度Cで高温溶融して得るが、楡林産石炭は相対的に低温で溶融でき、化学原料としてのコスト競争力が高い。

     豊富かつ高品質な石炭を目当てに、楡林経済技術開発区(楡神工業区)ではこれまでに、石炭最大手の国家能源(北京)や中煤能源(同)、陝西煤業化工(陝煤集団、西安市)、陝西延長石油(延安市)といった国有企業が、それぞれ1000億元(約2兆円)を超える投資を実施、または決定している。

     石炭を原料にメタノールを生産するCTM、メタノールからオレフィンを得るMTOの大型プラント立ち上げが続く楡林地区は、石炭由来のオレフィン生産量で中国全体の25%を占めるまでになった。

     ■誘導品群を多様化

     最近では延長石油が20年末、年産60万トンのMTO第2系列を稼働し、現地能力を120万トンに倍増。

     また陝煤集団は22年秋、合繊原料エチレングリコール(EG)プラント3系列を同時に立ち上げた。生産能力は計180万トン。

     化学品商社ハイケム(東京都港区)が、石炭由来の合成ガスを原料に使う環境性の高い生産技術を供与したこのEG設備は、1年でフル稼働入りした。能力ベースでは中国の石炭由来EG市場に占めるシェアは17%だが、昨年の実生産量でみると同30%と、他の設備に比べ稼働率の高さが際立つ。

     さらに陝煤集団は現地で、LiB電解液の原料に使うジメチルカーボネート(DMC)の生産にも乗り出し、石炭の原料利用を増やす。今秋第1系列が稼働。25年に増強で年50万トン体制を構築し、生産品の幅出しを狙う。

     同じく国有・山東能源集団傘下の兗州煤業は、06年に年80万トン能力のCTM設備を稼働。16年には国産プロセスで第2系列を立ち上げ、現地能力を180万トンに引き上げた。同時にメタノールの誘導品として、化学品原料のシュウ酸ジメチル(DMO)も事業化、経営基盤を強化した。同社もフル稼働を続けているという。

     楡林経済技術開発区当局によると、同区では現行5カ年計画(~25年)中に合計3000億元(約6兆円)の投資案件が完成を迎える。

     中国では金三角地帯を中心に25、26年と相次いで大型設備が稼働し、26年に同国のMTO能力は3000万トン近くに達する見通しだ(※)。楡林ではそれ以降も、陝煤集団や中煤集団が巨大プロジェクトの完成を控える。

     こうした西部での大型投資のトリガーとなったのは、第13次5カ年計画下の17年に発展改革委員会が発表した「現代型石炭化学工業の革新発展計画」だ。

     しかし、中国のカーボンニュートラル政策を受け、歴史ある石炭化学産業も従来の延長線上の枠組みでは投資認可が得られなくなっている。

     ※エチレンとプロピレンの合計能力。両製品の生産比率を変動可能な技術もあるが、MTOでの生産比率はおよそ1対1。
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