• スピーチする岩田会長
      スピーチする岩田会長
     【ソウル=岩﨑淳一、井上諒】韓国・ソウルで2日間にわたり開かれたアジア石油化学工業会議(APIC)が5月31日閉幕した。期間中に披露された各国・地域の団体トップや識者の発言からは中国をはじめとする設備新増設で供給過剰に陥り厳しい状況に直面しているとの認識がうかがえる。地政学リスクの高まりや貿易の保護主義の強まりなど先行きの不透明感は拭えず、加えてカーボンニュートラル(CN)達成に向け課題対応は一段と厳しくなっている。持続可能な社会の実現にいかに貢献するか、石化産業の未来の姿について議論が交わされた。

     「供給過剰、保護主義の強まりなど大きなリスク要因があり、アジアの石化産業は極めて厳しい状況に直面している」。幹事国である韓国石油化学協会のシン・ハクチョル会長が2日目冒頭のスピーチで取り巻く環境についてこう述べ、「好不況の周期を経ながらも成長が続くと期待してきた汎用品中心の従来型ビジネスでは、いまや外部環境の急激な変化に対応するのが難しい」と指摘した。

     石油化学工業協会の岩田圭一会長(住友化学社長)は「石化産業はエッセンシャルインダストリーで経済成長などに貢献してきたが、CN実現や持続可能な社会、循環型経済の構築に向けた新たな役割が求められている。しかし、供給過剰の長期化、低マージンにさらされ、この困難な事業環境に対応しながら新たな役割を果たすのは非常に大きな課題だ」と語った。

     苦しい状況が続くなかでもCNの実現に向けた取り組みが“待ったなし”というのは共通認識。環境負荷を低減する技術変革が差別化要素となり、長期的な競争優位性や収益性の向上につながる。各国代表がその重要性を強調し、方針や施策を示した。

     ジュロン島を「サステナブル・エネルギー&ケミカル・パーク」に転換する方針を掲げるシンガポール。新たな基金でクリーン燃料への移行を促す投資も計画する。同国の化学工業評議会のヘンリ・ネジャド会長は、エネルギー・化学部門は「これからもわが国の経済発展をけん引する重要な柱」であり、「大幅な変革が必要」と強調する。ただし、リニューアブルな資源への移行には時間がかかり、「化学産業に市場の不均衡と供給網の混乱がともなう可能性がある」とも指摘する。

     インドの石油化学製造者協会のカマル・ナナバティ会長は、「拡張型製造責任」の枠組みづくりを産・官の連携で進めるなど、「インドの石化産業はすでに持続可能なプロセスに動き始めている」と胸を張る。「静かに石化産業の形を変えている」として注目するのが、オイルtoケミカル(O2C)の潮流。O2C技術の取り込みやグリーン水素への移行が、「石化を変革し、ネットゼロ社会に導く大きな可能性を秘めている」と強調した。

     新技術を開発し社会実装していくためには、一社、一国での取り組みでは限界があり、国境を越えた協力も欠かせない。石化協の岩田会長は国際連携の必要性を説きながら「技術開発とともに制度の構築などでも協業すべきだ」と述べ、「APICが、多国籍で国境を越えた協業の機会を提供する場になってほしい」と期待した。
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