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  • 顔料 技術力生かし高機能品開発
  • 2023年11月1日
     経済産業省化学品統計による2022年の有機顔料生産量は、前年比6・9%減の1万1297トン、出荷量は同4・7%減の1万1049トンとなった。前年の21年はコロナ禍で大幅に減少した反動で増加となったが、22年は再び減少に転じた。今年上半期(1~6月累計)も生産量が前年同月比13・0%減の5176トン、出荷量が同7・8%減の5226トンと減少幅はさらに大きくなっている。主用途である印刷インキ向けの落ち込みが響いたかたち。顔料は国内需要の減少に加え、海外品との競争が激しくなっており、顔料メーカー各社はディスプレイ向け液晶カラーフィルター、遮熱塗料、化粧品など、技術力が生かせ、利益率が高い高機能品に力を入れている。

     <有機顔料 上期出荷金額4・9%増 原材料価格高騰が後押し>

     有機顔料は、鮮やかな発色、着色力、色数の多さなど色彩表現力に優れており、印刷インキや自動車塗料、合成繊維・プラスチックの着色など幅広く用いられている。種類は黄色、オレンジ、赤などをカバーするアゾ系と、ブルー、グリーンなどをカバーするフタロシアニン系に分けられる。有機顔料の国内生産量は06年まで3万トンを超えていたが、現在はその3分の1程度にまで減少している。顔料メーカーの海外生産シフトが進んだことや印刷インキ向けを中心に需要が縮小したことが要因だ。

     22年の有機顔料生産量は、アゾ系が前年比4・0%減の7097トン、フタロシアニン系が同11・5%減の4200トン。今年上半期(1~6月累計)はアゾ系が前年同期比12・9%減の3251トン、フタロシアニンが同13・2%減の1925トンとなっている。

     22年の有機顔料の出荷金額は、前年比8・4%減の219億200万円だった。23年上期は出荷量の減少にもかかわらず前年同期比4・9%増となったが、これは原材料価格高騰にともなう製品値上げの影響が大きい。

     有機顔料出荷金額はここ数年、200億円強のレベルを維持。出荷金額を出荷量で割った22年の顔料1トン当たりの価格は198万円で、ここ10年で4割程度上がっている。原料価格の上昇もあるが、単価の高い機能性顔料が出荷金額を押し上げていると推測される。

     有機顔料の需要量を左右するのが印刷インキ。製品における顔料含有率は塗料が約5%、プラスチック着色が約1%に対して印刷インキは15~20%と高く、そのため有機顔料の約4割が印刷インキ向けとされている。

     その印刷インキの国内需要は新聞・雑誌などの紙印刷物の減少にともない縮小し、生産・出荷量は06年のピーク時の6割程度にまで落ち込んでいる。

     22年の印刷インキ生産量は、前年比1・7%減の27万5777トン、出荷量は同1・3%減の31万8099トン。包装材・梱包材の用途が中心の樹脂凸版インキやグラビアインキが増加したものの、紙印刷物が主体の平版インキや新聞インキがさらに減少した。23年上期(1~6月)の生産量、出荷量も前年を下回っており、いぜんとして回復気配はみられない。

     一方、有機顔料の輸出入の動向をみると近年は、ともに減少傾向。

     輸入は、2000年代に入って顔料メーカーが中国やインドなど当時、規制が緩かったアジア地域に製造拠点を移したため、日本の輸入量が拡大した。かつて3万トンを超えていたものの、19年に2万トンを割り、現在は1万トン台で推移している。

     有機顔料が大半を占める色素顔料の22年輸入量は前年比2・6%減の1万6096トン。全体の8割以上を占めるアジア地域からの輸入は同6・2%減の1万3260トン。高級品が主体である欧州からの輸入は同20・1%増の2272トンとなっている。23年上半期(1~6月)の輸入は6971トン(前年同期比21・1%減)と減少幅はさらに拡大している。

     22年の輸入先を国別にみると、最大の輸入国であるインドからが同4・5%増の5322トンと増加。台湾も同1・1%増の3487トンになり、前年比1割以上減った中国と入れ替わって輸入国の第2位に浮上した。

     一方、輸出は90年代まで2万トン以上あったが、2000年ごろから急降下。日本メーカーの海外生産シフトが進んだことなどで、09年からは1万トンを切る水準で推移。

     22年の輸出は前年比17・4%減の6794トン。数量の多いアジア向けが同20・4%減の5300トン。欧州向けが同9・3%減の808トン、米国向けが同20・0%減の236トンなどとなっている。23年上期は同25・1%減の2993トンだった。

     <無機顔料 遮熱塗料用途に期待 性能を左右する中核材料>

     無機顔料は、黄土や青群などの天然の鉱物や土から得られる鉱物顔料と、二酸化チタン(チタン白)、コバルト青、黄鉛など金属の化学反応によって作られる合成顔料に分けられる。

     無機顔料は色彩表現では有機顔料に劣るものの、紫外線による退色が少ないなど耐候性、耐薬品性に優れることが特徴。さらに、隠ぺい力が高く、有機顔料に比べて安価というメリットから、建築物の屋根・外壁など、とくに広い面積を塗装する塗料を中心に使われる。

     そのため有機顔料に比べ、はるかに生産量は多い。顔料だけの用途ではないものの、たとえば酸化チタンの生産量は年間10万トン以上になる。

     無機顔料の主力用途である塗料の市場動向をみると、生産量は19年まで160万トン台をキープしていたが、コロナ禍で20年は150万トン以下に減少。21年は前年比2・8%増の152万8113トンと増加したものの、22年は前年比3・2%減の147万9000トン、今年上期は前年同期比1・9%減の71万9000トンと減少している。

     無機顔料の用途として注目されるのが遮熱塗料だ。太陽光線の熱源になる近赤外線だけを選択的に反射させて温度上昇を防ぐもので、顔料そのものが遮熱性能の中核技術となることから、顔料メーカー各社は合成技術や表面処理技術を駆使して、遮熱性能、分散性、着色力、防汚性などに優れる機能性顔料の開発に取り組んでいる。

     遮熱塗料の市場規模は13年まで年率2ケタの伸び。以降、若干の増減を繰り返しながら成長を続け21年度の出荷量は前年比15・2%増の1万5908トン(日本塗料工業会調べ)にまで拡大している。
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