• インタビュー
  • 住友化学・岩田圭一社長 「価値創造」型企業へ飛躍
  • 2024年1月11日
     <展望2024トップインタビュー>

    ◆…2023年は業界全体が厳しい環境下に置かれ、住友化学も大幅な業績の下方修正を余儀なくされました。現状を「創業以来の危機的状況」と分析しています。

     「世界経済全体が低調で、石化は中国の大規模新増設の影響を受けた。加えて、弊社特有の要因としてペトロ・ラービグの石精事業の不振やパテントクリフ、メチオニンの歴史的な市況低迷、南米の農薬流通在庫の調整など悪い要因が重なった。われわれの事業の弱さが浮き彫りとなった一年といえるだろう」

    ◆…事業構造にどのような課題を抱えていますか。

     「市況変動に左右されない経営はわれわれの悲願であり、過去10年以上にわたってスペシャリティへの投資を重ね、その比率も着実に上昇している。ただ、汎用製品は一定程度残っており、他方、これまでスペシャリティとして認識してきたメチオニンや中国の大型液晶ディスプレイ(LCD)用偏光板などが急速にコモディティ化している。従来の事業モデルや成長スピードの見直しを迫られている」

    ◆…業績改善に向け、聖域なき抜本的構造改革を進め、「新生スペシャリティケミカル企業」を目指すと宣言しました。

     「将来像について社内で議論を重ねているところだが、目指すべきは、スペシャリティ製品を製造して提供するのではなく、化学技術を生かして価値を創造し、提供する企業だ。化学企業はいま、その競争力の源泉や強みが問われており、われわれもモノでなく、価値、ソリューションをいかに生み出すか、そこを追求していく。そのなかでケミカルやバイオなどの得意技術も生きてくるはずだ」

    ◆…ポートフォリオをどう改革していきますか。

     「これまで5本柱で相互に支え合う構図だったが、『石化』と『医薬』は成長に陰りがみえ、『エネルギー・機能材料』も体力勝負の様相が強まっている。10年、20年後もグローバルに存在感のある企業であり続けるためには『農業資材』や『ICT』をもっと太らせつつ、それに続く新たな成長ドライバーを育成していく必要がある。厳しい環境下ではどうしても事業の立て直しに目が行きがちだが、次代の成長の柱の育成にこだわっていく」

    ◆…構造改革の第1弾に石化事業の再編を位置づけました。

     「上流の再編が必要不可欠なのは業界の共通認識となりつつあるが、では、なぜ必要か。その視点は需給バランスでなく、カーボンニュートラル(CN)であるべきだ。CNの実現は1社では困難であり、原燃料転換などを成し遂げるためには企業連携が欠かせない。例えば、エチレンはコモディティの代表製品だが、これからはエチレンをどんな原料で、どうつくるか、コンビナートごとにその競争力が問われてくる。いま、京葉地区ではバイオエタノールからオレフィンを製造する計画があり、次世代の20万トン規模の設備が立ち上がれば、既存の20万トンが不要になる。こうした議論をベースに再編は進んでいくだろう」 (但田洋平)

     <記者の視点>

     通期の利益は創業以来の大幅な赤字が見込まれ、「成長モデルの限界にきた」との言葉は重く響く。有利子負債も膨らむなか、足下では事業売却など短期の改善策でキャッシュを捻出しながら24年度のV字回復を果たす。中長期の成長戦略は4月に骨子を、今秋には新中期経営計画の概略を打ち出す考え。焦点は農薬、半導体に続く第3の柱の育成で、成長ビジョンをいかに描くか、24年は将来を左右する決断の年となる。
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