手を取り合うJTの嶋吉副社長(左)、塩野義製薬の手代木会長兼社長CEO(中央)、鳥居薬品の近藤社長(右)
塩野義製薬は、日本たばこ産業(JT)の医薬事業の買収を通じて創薬型製薬企業としての基盤を拡大し、成長を加速する。このほど鳥居薬品などJTグループが持つ医薬事業を約1600億円で買収すると発表した。鳥居薬品に対しては株式公開買い付け(TOB)を行う。JTグループが保有する創薬研究機能や臨床開発、販売機能にいたる一連のバリューチェーンを獲得することで、塩野義は強みの感染症領域や注力するQOL疾患における低分子創薬力を強化する狙い。
今回の取引を提案したのは塩野義だった。2030年に向けたビジョンで、「創薬型製薬企業として強みを進化させる」ことを軸の一つに据えており、今回の買収はその取り組みの一環。パイプラインの6~7割を自社あるいは他社との共同で創出することを重視してきた。「製薬企業の基本は自社創薬であり、それにこだわったビジネスモデルをどう進化させるべきかを考えてきた」(手代木功社長)という塩野義にとって、高い創薬力と自社との親和性が見込める事業領域を持つJTグループと手を組むことが「相当理想に近い」ものだった。JT・鳥居側も、塩野義のリソースを活用し相乗効果が期待できることから、「より早く大きく確実に事業成長できると判断した」(鳥居薬品の近藤紳雅社長)。
双方とも低分子創薬に強みを持つ。塩野義の100人超の創薬研究者体制にJTの約80人が加わり、塩野義は全盛期と同程度の体制を取り戻す。手代木社長は「日本の創薬に元気がないと指摘されるが、一矢報いたい」と力を込める。
塩野義はJTの人工知能(AI)創薬プラットフォームが「日本の中でも相当進化している」と高く評価しており、低分子創薬の強みを感染症からQOL疾患へ拡大を進める狙い。JT医薬事業では海外導出品などで年間約300億円のロイヤリティを獲得する実績があり、今後塩野義が後期開発も担うことで「自社でグローバル展開できるようにしていきたい」と意気込む。
JTがポートフォリオに持つ免疫・炎症、循環器・腎臓領域は、塩野義が力を注ぎたいが創薬研究者を含めリソースを割くことができていなかった領域であり、中枢神経系は双方に強みがありシナジーを見込む。鳥居の強みである皮膚、アレルギー領域なども、塩野義が注力する領域であり営業面でも方向性が合致すると判断した。塩野義は製造ノウハウを投下しJTグループ製品のグローバルサプライチェーン強化を図るとともに、自社製造を生かし製品原価率低減にも取り組む。
鳥居は堅調に業績を伸ばし、2025年度計画売上高647億円は過去最高となる見通し。JT医薬事業と合わせ、塩野義には約1000億円の売り上げが加わる。手代木社長は双方とも新製品の育成のために「一層資源が必要なタイミング」であり、「ともにシナジーを発揮し日本におけるプレゼンスを強化する機会」と位置づける。
1987年に事業参入したJTは医薬事業から撤退する。新薬創出ハードルの上昇など医薬品開発を取り巻く環境が激化していることを受け、JTグループによる事業運営では中長期的な成長が不透明な状況にあった。新薬創出に重点を置く製薬企業のもとで事業展開を行うことが最善の選択と判断した。そのうえで、「JTの研究開発力と鳥居の販売力の両方に価値を認めてくれる創薬主体の製薬専業企業」(JTの嶋吉耕史副社長)として「塩野義が唯一のベストなパートナーだった」と評価した。
塩野義は鳥居薬品の株式約45%を保有する少数株主に対し、6月半ばまでTOBを実施する。塩野義は9月にも鳥居薬品を完全子会社化する予定。12月にはJTの医薬事業と、米国孫会社アクロス・ファーマを取得する。JTグループの医薬事業に携わる従業員約670人の雇用が現在と実質的に同等の労働条件で継続され、大阪府と神奈川県の研究所、東京都の医薬事業組織などが承継される。