• UBEは30年をめどとした国内生産の停止を検討(宇部藤曲工場)
      UBEは30年をめどとした国内生産の停止を検討(宇部藤曲工場)
     <2050持続可能な未来へ アンモニア/2(その1)>

     今年5月、UBEが2030年をめどにアンモニアの生産撤退を検討していると表明したことは業界内で少なからぬ驚きをもって受け止められた。多くの二酸化炭素(CO2)を排出するアンモニアは温室効果ガス(GHG)の多量排出産業として市場から厳しい視線を向けられる化学企業にとって重荷となり、設備の老朽化にともなう修繕費負担の増加も国内最大メーカーの稼働停止検討を後押しする。00年には200万トン近くあった生産能力はいまや半減し、残った国内メーカーも事業構造の見直しを迫られている。【2面に関連記事】

     アンモニアの国内生産は現在、昭和電工、日産化学、三井化学、UBEの4社に絞られ、およそ100万トンの内需のうち、国内生産が8割。残り2割は輸入品で賄ってきた。向け先は肥料は限定的で、化学原料や火力発電所の脱硝など工業用が中心であるのが日本の特徴だ。

     日本最大38万トンの生産能力を誇るUBEのアンモニア事業は1933年、宇部窒素工業時代の石炭のガス化に端を発し、近年はオイルコークスを原料にカプロラクタム(CPL)や炭酸ジメチル(DMC)などの基礎原料として同社の屋台骨を支えてきた。ただ、足元は設備トラブルで度々の稼働停止を余儀なくされ、CNの潮流も停止検討を急がせる。稼働を止めればおよそ160万トンのCO2の排出を削減でき、21年度実績比で37%の削減効果が期待できる。

     <外部調達を検討>

     既存の化石燃料から製造するグレーアンモニアは、およそ100年前に開発されたハーバー・ボッシュ法によるもの。主に化石由来の水素と窒素を400~600度C、100メガパスカル前後の高温・高圧下で合成する必要があり、世界のエネルギー消費の3%、CO2排出の1%超を占めるという。

     中長期的にはCO2を回収したり、再エネ由来のクリーンアンモニアの国内導入が計画され、UBEも「外部調達への切り替えを検討していく」(泉原雅人社長)。同社は生産能力の半量、20万トン近くを外販しており、国内でアンモニアの誘導品工場がどれだけ残るかを見極めている最中だ。

     <ブルー化が急務>

     「CO2の多量排出型事業という点ではわれわれも危機感を強くしている」と言うのは三井化学の橋本修社長。同社は大阪工場に31万トン能力を有し、尿素(35万トン能力)を経てメラミンやNoX(窒素酸化物)還元添加剤「アドブルー」などに誘導。半量は発電の脱硝用などで外販している。

    • 三井化学は既存品の“ブルー化”にも注力(大阪工場のアンモニア誘導品である尿素プラント)
      三井化学は既存品の“ブルー化”にも注力(大阪工場のアンモニア誘導品である尿素プラント)
     UBEが撤退を検討するなどグレー・アンモニアへの風当たりが強まるなか、「川下の尿素生産など経済安保の問題からもすぐに流通できなくなるとは思わないが、時流に乗り遅れないようさまざまな検討を進めている」(ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業本部)。

     まずは、既存製品のブルー化を急ぎ、エチレンカーボネイトなどCO2を原料とした誘導品を需要拡大に合わせて増強するCCUS(CO2の回収・利用・貯蔵)に努める。「さまざまな技術を活用しCO2回収も併せて行う」(同本部)。

     他方、燃料用途として大規模なクリーンアンモニアの輸入が計画されるなか、同社も中長期ではクリーンアンモニアや水素の導入検討を開始した。1基5000トンの自社タンクの増強も検討対象だ。
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