• 環境課題 連載
  • 商社が挑む燃料アンモニアSC ブルーで主導権争い
  • 2022年12月14日
    • 三菱商事はインドネシアではブルー・アンモニア生産のため、CCSに関する共同調査を実施している(パンチャ・アマラ・ウタマのプラント)
      三菱商事はインドネシアではブルー・アンモニア生産のため、CCSに関する共同調査を実施している(パンチャ・アマラ・ウタマのプラント)
     <2050持続可能な未来へ アンモニア/3(その1)>

     総合商社が燃料アンモニアの大規模サプライチェーン(SC)構築に乗り出している。先行するのは製造工程で発生する二酸化炭素(CO2)をオフセットしたブルー・アンモニア。まずは火力発電所の石炭混焼や舶用燃料などで普及が進みそうだ。政府は2030年に300万トン、50年に3000万トンの需要を見込む。自社権益や既存事業のノウハウを生かした主導権争いも熱を帯びてきた。

    【2、8面に関連記事】

     アンモニアは地産地消が基本で、世界の総需要約2億トンの9割近くが肥料などに加工されてきた。単体の取引量は1割に過ぎないが、経済産業省は国内大手電力すべてが石炭火力で20%混焼すると年2000万トンが必要になると試算。エネルギー用途での大規模供給には製造から輸送、貯蔵までの新たなSCが求められる。

     液化天然ガス(LNG)でアジアトップクラスのシェアを持ち、年約1200万トンの持分生産量を有する三菱商事。燃料アンモニアもグローバルベースで調達・供給ポートフォリオ構築に努め、ブルー・アンモニアの製造・輸送から発電向けまでのSC構築に取り組んでいる。従来は化学品原料の一環で扱ってきたが、3年前にプロジェクトチームとして燃料アンモニア・水素導入室を設置。昨春の組織改編で次世代発電燃料事業部を設けた際、同室も事業部の下に移管し事業化フェーズに入った。

     インドネシアでは出資するアンモニア工場の製造過程で生じるCO2を回収し地中に埋めるCCSの導入で最大年70万トンのブルー・アンモニアの製造を検討。カナダ西部アルバータ州ではシェルの子会社と組み、近隣ガス田で産出する天然ガスを原料にブルー・アンモニアを年100万トン生産し、日本の発電事業者向け輸出を計画する。

     <北米が中核的位置に>

     製造サイトに必要な要件は主に(1)競争力ある豊富な原料ガスや再エネの賦存(2)大規模CCS(3)大規模輸出港湾-の3点。これらに加え、米国はインフレ抑制法(IRA)でCCSに多額の資金投入が想定され、同社が構築するポートフォリオの中核的位置づけとなる。

     年1000万トンと世界最大規模の製造拠点の立ち上げを検討するのがテキサス州だ。9月には同国最大級のエネルギー製品輸出拠点コーパス・クリスティ港の港湾当局と用地使用の覚書を結んだ。今後数年かけて事業化を精査し、日本やアジアを主対象に事業計画を詰める。メキシコ湾岸でも独立系石油開発会社デンバリーの子会社とCO2の輸送と貯留に関する主要条件を合意。製造設備で排出されたCO2を最大年180万トン引き渡し、100万トンのブルー・アンモニアを製造する方針だ。

     <既存事業の知見活用>

    • 三井物産は肥料、化学原料向けのアンモニア輸入で国内トップシェアを誇る(液化ガス船を利用した日本へのアンモニア輸送のようす)
      三井物産は肥料、化学原料向けのアンモニア輸入で国内トップシェアを誇る(液化ガス船を利用した日本へのアンモニア輸送のようす)
     1974年以降、半世紀にわたりアンモニアを取り扱ってきた三井物産。とくにアジア地域ではシェア約20%、年60万トンを取り扱い、02年に日本へも化学原料などとして輸入を始めた。足元では欧州のガス高騰や需給タイトを受け、欧米でのマーケティングエリア拡大を本格化している。

     同社のクリーンアンモニアSCの構築は天然ガスの上流事業やLNG事業、アンモニア事業での経験・パートナーシップを生かした取り組みが柱だ。アラブ首長国連邦では70年代からアブダビ国営石油会社(ADNOC)とLNG事業を開発・運営してきた知見を生かし、25年にも年100万トンのブルー・アンモニア製造に乗り出す。世界最大手の米CFインダストリーズとはメキシコ湾岸で27年の製造開始を想定。これも同社とのトレーディング事業から生まれた計画だ。西豪州では自社保有の権益ガスや廃ガス田のアセットを活用したスキーム作りに努めている。

     国内の燃料向け需要は27年とみられるJERAの碧南の石炭混焼を皮切りに進むもようで、三井物産のアブダビや米国案件はそれに先駆けた稼働を予定。同社はまず、「欧州やアジアの化学用途などに販売し、日本向けの安定供給に貢献したい」(二宮大介クリーンアンモニア事業開発室長)。
いいね

  • ランキング(持続可能社会)