•  <2050持続可能な未来へ アンモニア/3(その2)>

    • 伊藤忠はブルー・アンモニアをクリーン肥料に転換したり、グループのドールの農園で使用するスキームを構築する(ドールのバナナ農園)
      伊藤忠はブルー・アンモニアをクリーン肥料に転換したり、グループのドールの農園で使用するスキームを構築する(ドールのバナナ農園)
    【1面から続く】

     他の総合商社も得意領域やグループネットワークを活用したサプライチェーン(SC)構築を急いでいる。

     経営計画の基本方針に「『マーケットイン』による事業変革」を掲げる伊藤忠商事はアンモニア事業でも川下のユーザー視点でビジネスを形成し、差別化を図ろうと躍起だ。

     上流ではカナダのアルバータ州においてマレーシア国営石油大手ペトロナス子会社などと連携し、2027年の生産開始を目指して年産100万トンのブルー・アンモニア工場の建設を計画する。カナダ西部の輸出港から日本へ海上輸送し、電力会社や化学メーカーなどの自家発燃料として供給する。

     同社のSC構築の特徴は化学品部門が主体となって取り組んでいる点だ。発電やバンカリングなど燃料アンモニア市場の本格立ち上がりが20年代後半と予想されるなか、同部門の知見を生かし、まずは既存の肥料向けに供給し、日本やアジアで販路を開拓する戦略を採る。

     すでにアラブ首長国連邦のアブダビ国営石油会社(ADNOC)が製造したCCS(二酸化炭素の回収・貯蔵)を活用したブルー・アンモニアを調達し、日本の肥料メーカーに販売を開始。欧州連合(EU)は肥料を鉄鋼やセメントなどと並ぶ温室効果ガス(GHG)の多量排出製品と位置づけ、環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素税」の対象に選定した。26年からは排出量に応じた徴税が想定され、伊藤忠は原料であるアンモニアのクリーン化需要も高まるとみる。今後はクリーン肥料の外販や自社グループのドールの農園での採用などでSCを拡充していく。

     裾野の広いアンモニアのSC構築に部門横断で取り組んでいるのが住友商事だ。上流開発をメインに全体のプロジェクトマネジメントを担う水素事業部を中心に、7部で「アンモニア組織横断プラットフォーム」を構成。エネルギートレード部はアンモニアバンカリングで燃料供給役を担い、船舶事業部はアンモニア燃料船を建造し、保有・運航する。従来、日本の電力会社に石炭を納入してきた石炭・原子燃料部は今後、アンモニアもセットで販売する。コモディティビジネス部は排出権取引を視野に入れる。

     無機化学品部は化学品や肥料向けにアンモニアを販売する。硫酸トレードや貯蔵の知見を生かし、将来はアンモニアのタンクオペレーションも展開していきたい考え。

     「プロフィットプールは“つくる”事業にある」(武田信隆水素事業部クロスファンクショナルチームリーダー)との認識の下、まずはチリ・豪州などにおけるアンモニア製造事業や韓ロッテケミカルとの生産事業への共同出資検討を進めている。上流を起点に川中ではタンクを構えての口銭ビジネスやクラッキングからの水素事業へも発展できるとの認識だ。

     新技術への投資も同社の特徴で、水素関連技術に特化した英APベンチャーに出資し、アンモニア合成やクラッキング技術を持つ米スターファイアー・エナジーや、アンモニアを高効率で水素変換する米amogyなどとの協業を模索する。

     また、ロッテとスタートアップの米シジジー・プラズモニクスとは光触媒を利用してアンモニアを通常の熱分解よりも低エネルギー、低コスト、高効率でクラッキングし水素を製造する技術開発を進める。27年以降の事業化を見据え、来年にはロッテのサイト内で日量200キログラムの実証試験に踏み出す。技術開発が進めば、「将来は街中のタンクで貯蔵されたアンモニアをクラッキングして水素を製造し、燃料電池自動車(FCV)に供給するといった仕組み作りも可能となる」(武田氏)。
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