• 第7回水素・アンモニア合同会議のようす。中央は座長の佐々木一成九州大学副学長
      第7回水素・アンモニア合同会議のようす。中央は座長の佐々木一成九州大学副学長
     <2050持続可能な未来へ アンモニア/5>

     政府は昨年策定した第6次エネルギー基本計画で、アンモニアと水素を2050年カーボンニュートラルに必須のエネルギー源と位置づけ、30年の電源構成で1%とする目標を初めて明記した。

     この野心的な目標の達成には、アンモニア、水素を大量調達して国内の需要家に届ける大規模サプライチェーン構築が不可欠になる。ただ、新たなエネルギーであるアンモニア、水素のサプライチェーンを一から構築するには、膨大な費用がかかる。それを民間の企業努力にだけ委ねていては前に進まない。

     そこで経済産業省は今年3月から、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)に水素政策小委員会・アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会の合同会議を設置。アンモニア、水素の供給拡大に向けて民間企業、とくに先行的にサプライチェーン構築に取り組もうとする供給事業者の投資予見可能性を高める制度措置を検討してきた。同時に、需要拡大に向けて、これら脱炭素燃料を効率的に需要家に届けるための拠点形成に向けたインフラ整備支援制度の導入を目指してきた。

     とくに供給事業者は、アンモニア事業に投資するに当たり、販売価格が供給コストを下回ってしまう価格リスクや、販売量が見通せないという量的リスクを抱える。政府はそれらのリスクを軽減し、供給事業者の投資予見性を確保するために、英国やドイツの事例を参考に、値差支援制度の導入を進めようとしている。

     <既存の燃料価格に>

     同制度は、供給事業者が投資回収できる水準で基準となる価格を決定し、需要家に受け入れられる価格に設定する参照価格との差額を、政府が長期間補填する仕組み。経産省が13日に公表した同合同会議の中間整理案では、アンモニアの参照価格は石炭価格に設定することが示された。既存の化石燃料の価格まで供給価格を抑えることで、需要家もアンモニア発電やアンモニア燃料船などの事業化に安心して取り組めるようなり、アンモニアの大量需要創出につながると期待されている。

     中間整理案では、値差支援制度の支援期間を原則15年間とすることも示された。支援対象となるプロジェクトもクリーン(低炭素)アンモニアであれば、再生可能エネルギー由来水素を原料にしたグリーンアンモニアでも、天然ガスや石炭を原料に製造過程で出た二酸化炭素(CO2)を回収、貯留(CCS)するブルーアンモニアでも問わないとした。ただ、CO2排出量の閾値は国際的に遜色ないものにする方針だ。また、化石燃料由来のグレーアンモニアでも将来的にブルー化を目指すプロジェクトであれば支援対象とする。

     <10年間で8拠点選定>

     サプライチェーン構築に向けた値差支援制度と対になるのが、脱炭素燃料供給拠点の形成に向けた供給インフラ整備支援制度だ。海外から大量にアンモニアを調達しても、大量需要を創出できなければ、大規模なサプライチェーン構築によるコスト低減効果が見込めないためだ。

     合同会議の中間整理案では、脱炭素燃料供給拠点として、今後10年間に大規模拠点3カ所、中規模拠点5カ所の計8カ所を選定する方針を明記した。大規模拠点は大都市圏の石油化学コンビナートや大規模火力発電所立地地域など、中規模拠点は地方の石化コンビナートや地域の再エネ拠点などを想定している。

     将来的に大口需要家となるCO2多排出産業が集積するこれらの地域に、貯蔵タンクやパイプラインなどの共同インフラを整備することで、大規模需要を効率的かつ迅速に生み出していきたい考えだ。

     経産省は、値差支援制度、供給インフラ整備支援制度ともに24年ごろの導入を計画している。同制度を実施するための予算には、政府が新たに発行する「GX経済移行債」で調達した計20兆円規模の資金を活用する方針。アンモニアの大規模サプライチェーン構築は、韓国やドイツなども着手しており、これら競合国に先行するためにも、より詳細な制度設計を早期に決定することが望まれている。
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