• 福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
      福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
     <2050持続可能な未来へ アンモニア/6(その1)>

     水素キャリアとしてのアンモニアは体積当たりの水素含有量、既存インフラの利用、発電コストなど優位性は多い。一方、製造時に二酸化炭素(CO2)を大量に発生することが課題として指摘されてきた。ハーバー・ボッシュ(HB)法は鉄系触媒を用い400~500度C、10~30メガパスカルの高温高圧下で窒素と水素を反応させてアンモニアを製造する。消費エネルギーは大きいが、100年以上の歴史があり、年産100万トンレベルの大量生産に適した製法として定着している。

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     アンモニアをカーボンニュートラルに貢献するエネルギーとして用いるにはプロセスを省エネ化し、発生するCO2を回収して地中貯留する手法が当面急がれる。しかし、2050年に向けてはHB法に代わる新製法と再生可能エネルギーを組み合わせ、プロセス全体のグリーン化が不可欠だ。

     低温低圧プロセスの開発では東京工業大学の細野秀雄教授の成功が先行した。この成果は17年に同大発ベンチャーとして設立されたつばめBHBに引き継がれている。

     日揮ホールディングス、産業技術総合研究所なども共同で低温低圧プロセス開発に取り組み、福島県郡山市の産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)に実証設備を設置した。18年に再エネ由来水素を原料にアンモニアを製造し、発電にも成功している。

     <安価な触媒用い実証>

     東工大、日揮ともにルテニウム系触媒を用い、400度C、5メガパスカル程度の反応条件で実施した。だが、高価なルテニウムは燃料用の量産設備には適さない。この課題解決に向け新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は22年1月にグリーンイノベーション基金事業として低コストアンモニア製法開発として2件の事業を採択した。

     アンモニア新触媒開発・実証事業は千代田化工建設、東京電力ホールディングス、JERAが共同で受託し、その下に名古屋大学、東工大、京都大学をそれぞれリーダーとする3チームが新触媒開発に取り組む。安価な金属触媒を用いた300~400度C、5~10メガパスカルのプロセス開発が目標。「30年にはパイロット設備での実証を終え、商業化可能な状態にしたい」(千代田化工建設)考え。

     もう一件は出光興産を幹事とし東京大学など4大学が参加したグリーンアンモニア電解合成プロセス開発。東大の西林仁昭教授らが開発したモリブデン触媒を用い、再エネ電気を用いて水と窒素から常温常圧で製造するプロセスを開発する。

     これとは別にIHI、北海道大学など5者もNEDOの先導研究としてアンモニア電解合成プロセス開発を実施している。

     <天然ガス原料に製造>

     INPEXは新潟県柏崎市の同社ガス田地区で、「ブルー水素・アンモニア製造利用一貫実証試験」を実施する。同県内で生産する天然ガスを原料に年700トンの水素を製造して発電燃料に使用し、一部をアンモニア製造に用いる。発生するCO2はガス田に圧入する。プロセスは非公表だが、近年開発された低温低圧プロセスを採用する。

     これら開発・実証中の低温低圧プロセスが大量生産に適したHB法に代わり得るかは未知数だ。しかし、直接電解法も含め再エネとの相性のいいプロセスであり、CO2回収・貯留(CCS)適地がなく、かつ再エネコストの安い国で、高効率電解装置を多数並べたグリーンアンモニア量産プラントが実現する可能性はある。旭化成と日揮HDが福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で実施している「アルカリ水電解装置を用いた大規模水素製造とアンモニアなどグリーンケミカルプラントの実証」は、将来の量産技術確立を視野に入れたものだ。

     日本でも地域によっては余剰再エネが生じることが想定され、平準化のために電解装置を用いた地産地消型の水素・アンモニア生産は考えられる。環境価値が評価されれば、高付加価値化学品の原料に用いられることも十分あり得るだろう。

    (おわり 加納修、藤岡竜志、石川亮、井上諒、但田洋平が担当しました)
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