<レゾナック始動/中>
レゾナック(昭和電工と昭和電工マテリアルズの統合事業会社)の発足前夜、2022年1月に就任した髙橋秀仁社長を中心とする経営チームは社員の意識や組織風土を変える社内改革を猛スピードで進めていた。半導体材料を軸とする成長戦略の達成を目指す傍らで、なぜ人や組織の変革に力を注ぐのか。その理由をひもとくと、「戦略を成り立たせる最重要要素が人」という経営哲学が浮かび上がる。
時計の針を22年8月5日に戻すと、旧昭和電工の中間決算の説明会はいつもとは違う光景だった。例年であれば本決算と中間決算を公表する半期に一度の説明会は社長が出席し、事業の概況や経営戦略の進捗状況を説明する。この日は、染宮秀樹最高財務責任者(CFO)が1人で決算内容を説明し、質疑に応じた。
<70カ所の拠点を回り社員と対話>
髙橋社長不在の答えは現場にあった。
延べ70カ所の拠点を回り、タウンホールミーティング(社員との対話集会)を60回以上、部課長や若手・リーダー候補とのラウンドテーブル(座談会)は110回開催。これが就任1年目の髙橋社長が22年の1年間に社員と直接コミュニケーションをとった回数だ。
「社長としての時間の出来る限りを社員との対話に割く」。新体制下での経営戦略を公表した2月に語った言葉通り、髙橋社長は自ら現場に出向いてパーパス(存在意義)と4つのバリュー(価値観)からなる経営理念や会社が目指す姿を説き、共通の価値観を共有できる社員を1人でも増やすことに時間を費やした。
<社員共創の達成感、GEで学ぶ>
21年9月の社長交代会見でも、髙橋社長は「日本の製造業を代表する人材輩出企業にしたい」と抱負を語った。そこまで人にこだわる理由はどこにあるのか。そう尋ねると「今の時代、会社の戦略は(誰が生み出したかは関係のない)『コモディティー』で、要するに利益を上げ、成長を目指すと示したに過ぎない。差別化の要因は、作った戦略を経営陣がやり切るか、やり切るための人材がいるかに尽きる」との回答が返ってきた。
そう語る髙橋社長には原風景がある。以前の所属先である米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。「社員皆が同じ価値観の下に適度な緊張感を持ち、自律的に行動を起こし、共創しながら、一つひとつ確実に結果を出していく。そこから得られる達成感はとても心地が良かった」と当時を振り返る。
やるべきことを普通にできる会社-。グローバル企業で学んだ手法を日本流にアレンジしながら、自身がかつて見た風景を作り出すことに髙橋社長は心血を注ぐ。目指す姿へと迷わず突き進めるのは、行き着く先に成長の果実があることを知る者の強みともいえる。
<リーダー育成へ全社的な仕掛け>
「ポテンシャルを持った人たちの中から、将来のリーダーを育てることが経営チームの使命」と語るのは、染宮CFOだ。
22年に発足した経営チームが力を入れているのが、将来のリーダーを育成する「タレントマネジメント」だ。各階層別の教育プログラム、社内ポストの公募制、全社最適の観点に照らした人事ローテーションなど、さまざまな仕組みが動き始めている。
全社的な取り組みに加え、各部門でも専門能力を高め、リーダーを育成する教育プログラムが走っている。例えば財務経理部門では、染宮CFOが主宰する勉強会を定期的に開催。「将来のレゾナックを引っ張る気持ちを持ってもらうことを意識しており、手応えを感じている」と話す。
「人は研修などのトレーニング、先輩や上司からの助言・指導、経験から仕事を学ぶといわれるが、会社全体が見渡せる組織を社員が成長の糧を得る『経験のハブ』として活用してもらいたい」と、真岡朋光最高戦略責任者(CSO)は語る。全体戦略を考える経営企画部などで働く機会を、人材育成のルートとしてインフラ化していく考えだ。
世界で戦える会社へと変革する-。そう宣言したレゾナックが目指す姿に近づいているかを推し量る指標は、約2万6000人のグループ社員の目がどれだけ変わっていくかだ。