• スパイバーはタイでたんぱく質素材を量産。アパレルブランド「ゴールドウイン」に採用された
      スパイバーはタイでたんぱく質素材を量産。アパレルブランド「ゴールドウイン」に採用された
     <明日をつなぐ SDGs達成へ注目技術/1 バイオ・新生産技術/上>

     「化学の日」のきょう10月23日から1週間、「化学週間」が始まる。先行きが見えづらい世界情勢だからこそ、地球規模で持続可能な人類社会、国際社会の実現をしっかりと見据え、絶え間ない挑戦を通じイノベーションを生みだしたい。あらゆる産業に革新が起きるいま、化学産業が果たすべき役割は極めて大きい。今年の化学週間は、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する注目技術の動向を追う。

     微生物が行う発酵代謝のプロセスを利用する「バイオものづくり」。化学品や医薬品などの生産に古くから利用されてきたが、ゲノム編集やDNA合成、人工知能(AI)といった最先端技術と融合し、「合成生物学」「エンジニアリングバイオロジー」といった呼称で新たな産業へと昇華しつつある。2030年には世界で200兆~400兆円の産業規模に拡大するとの予測がある。

     すでに微生物発酵によってさまざまな物質の量産が可能になり、バイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)がタイで量産を始めた人工構造たんぱく質素材「ブリュード・プロテイン」を用いた繊維がアパレルブランド「ゴールドウイン」に採用されるなど、実績が増えている。化石資源由来のサプライチェーンに比べて、製造コストなどに課題は残るが、バイオエコノミーの世界潮流が産業利用を後押しする。

     向こう10年以内に世界の工業生産の3分の1がバイオものづくりに置き換わるとの見方もあり、半導体と同様に、米欧、中国、日本などが産業育成に巨額の予算を注ぎ込む。ただし、いまだ未成熟な産業という側面もある。過度な投資熱や事業戦略の失敗を受けて、米アミリスや米ザイマージェンといった有力企業が破産申請などに追い込まれた。

     こうしたなか、徐々にバリューチェーンの分業構造が明確になり、主要プレイヤーが固まってきた。バイオものづくりでは、微生物の発酵代謝経路を幾通りも組み合わせて目的物質を生産するため、最短でより高収量の経路を見いだせる企業が競争優位に立つ。未利用・非可食のバイオマスや二酸化炭素(CO2)、水素といった栄養源(原料)よりも、競争力の源泉は「微生物作製」に収れんする。

     その微生物作製でトップを走るのが米ギンコ・バイオワークスだ。新型コロナウイルスワクチンに使われたメッセンジャーRNA(mRNA)の原料製造に技術が採用され、米ファイザーなどの製薬大手のほか、日本では住友化学と提携する。提携例をみると、医薬品、ワクチン、化粧品といった高機能素材にターゲットを据えている。

     ギンコの強みは微生物の代謝経路に関し、数十億個のゲノム配列を独自にデータベース化していることだ。目的物質を生産する代謝経路を、AIを駆使して予測し微生物を設計する。数十台のロボットが微生物の改良を自動で行い、「設計(D)」「構築(B)」「評価(T)」「解析(L)」のDBTLサイクルを高速で回して最適な微生物にたどり着く開発期間を大幅に短縮した。

     日本企業でギンコを追うのが、「東のGEI、西のバッカス」。東京大学発スタートアップのグリーン・アース・インスティテュート(GEI、東京都文京区)と、神戸大発のバッカス・バイオイノベーション(神戸市中央区)を指し、半導体の製造受託企業(ファウンドリ)のプラットフォーマーとなった台湾のTSMCのように、両社は「バイオファウンドリ」の舞台で主導権を握る構想を描く。
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