• 環境課題 連載
  • SDGs達成へ注目技術 カーボンネガティブ切り札
  • 2023年10月25日
     <明日をつなぐ SDGs達成へ注目技術/3 CO2分離・回収/上(その1)>

     火力発電所や化学工場から排出される二酸化炭素(CO2)や大気中のCO2を回収し、化成品原料としても供給可能な技術としてCO2の分離・回収が注目されている。カーボンニュートラルにとどまらない“カーボンネガティブ”こそが必要とされるなか、排出抑制からさらに踏み込み、削減しきれない排出分を減らす有効利用の方策が欠かせないからだ。分離・回収技術の市場は2030年に6兆円、50年には10兆円まで膨らむとの試算もある。国内だけでも50年に約4000億円にまで達すると見込まれ、化学企業の多くが環境貢献と事業機会の二兎を追うべく技術開発を急ぐ。

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     国立環境研究所によると、20年の日本の温室効果ガス(GHG)の総排出量は11億5000万トンで、このうちCO2は9割超の10億4400万トン。発電所や製油所などエネルギー部門が40%、産業部門が25%と両部門が3分の2を占める。排出削減に向けては再生可能エネルギーや水素導入が有効だが、その実現ハードルは高く、化学や鉄鋼など産業セクターでは原料由来や製造過程での排出が避けられない。国も工場などの排ガスや大気中のCO2の分離・回収が不可欠とみてさらなる技術開発と低コスト化を図り、50年の世界市場の3割のシェア獲得を目指す。

     分離・回収技術は、排ガス組成やCO2濃度、排出源に合わせ、化学吸収法や物理吸収/吸着法、膜分離法、深冷分離法などの手法開発が進んでいる。化学吸収はアミン化合物などの化学反応でCO2を吸収する性質を利用したもので、石炭火力発電所など低圧、大量のCO2処理ですでに商用事例が豊富。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルやノルウェーのエイカー、三菱重工業、日鉄エンジニアリング、東芝などが手がけている。

     物理吸着法は温度や圧力変動によって吸脱着を繰り返す手法で、ゼオライトなど多孔質体が持つ物理的な吸着作用を利用。分離・回収に要するエネルギーが小さく、設備の小型化にも適している。

     CO2を選択的に透過する特性を生かしたのが膜分離だ。分離プロセスが比較的シンプルでエネルギー消費が少なく、有害物質を含んだガスに適している。こちらも設備の小型化が期待できる。

     CO2の分離・回収で国内の技術開発を牽引してきたのが、地球環境産業技術研究機構(RITE)だ。RITEでも先行して取り組んできたのが化学吸収液であり、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のCOURSE50プロジェクトの下、日本製鉄と共同で開発。14年に日鉄エンジニアリングの省エネ型CO2回収設備に採用され、18年に立ち上がった2号機は化学吸収法による石炭火力発電所の燃焼排ガスからのCO2分離・回収技術として日本初の商業設備だ。

     膜については市場では燃焼排ガスからのCO2回収が主流だが、RITEは加圧したガスからの分離の方が圧力差があるためコスト的に有利と判断。水素とCO2の高圧混合ガスからCO2を選択的に透過させる「分子ゲート膜」の開発を進めている。膜中に取り込まれたCO2が膜材料間隙に擬似架橋を形成し、他のガスの透過を遮断するコンセプトで、膜材料には高密度のアミノ基を有するデンドリマー(樹状高分子)を採用した。

     石炭ガス化複合発電(IGCC)への適用に加え、水素社会の到来も見据え小型・中圧の水素製造システムも対象とし、膜モジュールシステムの研究を進める。3メガパスカルまでの耐圧性と高い分離性能を示す改良膜材料を見出し、「今後、改良材料による膜エレメント開発やスケールアップを目指す」(化学研究グループの甲斐照彦主任研究員)。
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