• 住友化学子会社、米ベーラント・バイオサイエンスの微生物農薬の工場(オハイオ州)
      住友化学子会社、米ベーラント・バイオサイエンスの微生物農薬の工場(オハイオ州)
     <明日をつなぐ SDGs達成へ注目技術/5 環境配慮型の農業資材/上>

     欧州のファーム・トゥ・フォーク、米国の農業イノベーション、日本のみどりの食料システム戦略--。世界の農業政策はこぞって化学農薬や化学肥料の使用量やリスクを2030年から50年にかけて大幅に削減する方向だ。各国の農薬規制が強まっていくなかで、化学農薬だけでは食糧増産を達成できない。そこで注目が集まるのが天然物由来などの環境配慮型の農業資材だ。

     環境配慮型の農業資材のうち、化学農薬の代替として期待されるのが「バイオ農薬」。微生物の代謝物、カビや細菌など微生物そのもの、あるいは害虫の天敵生物などが該当する。農薬業界に衝撃を与えたのは米調査会社ラムリサーチの予測で、50年頃にバイオ農薬が化学農薬の市場規模を上回ると分析。現状の70億ドル規模から600億ドル規模と約10倍に拡大する。

     一般的に新規農薬の開発期間は10年以上を要する。環境規制に対応する化学農薬の開発と同時に、「バイオ農薬の研究開発に早急に着手しなければシェアを奪われ、生き残れない」(国内農薬大手)。欧米の農薬メジャーは「リジェネラティブ(環境再生型)農業」といっせいに謳いはじめて事業育成に乗りだした。世界競争は熾烈を極め、高騰するM&A(合併・買収)案件に手を出せないとの声も聞かれる。

     そのバイオ農薬市場で存在感を高めるのが住友化学。国際アグロ事業部の生嶋伸介常務執行役員は「当社はパイオニアであり、フロントランナーだ」と話す。米アボット・ラボラトリーズから微生物農薬などの事業を買収して参入したのは00年とライバルに先行し、その後も17年に協和発酵バイオの植物成長調整剤の事業を買収するなど、M&Aを駆使して製品構成を広げてきた。

     住友化学の主力製品はバクテリアを使う微生物農薬と、複数の有効成分を組み合わせて用いる植物成長調整剤で、現状の事業規模は約400億円(21年度)。同社は米欧や南米、インドなどグローバルに農薬の開発・販売体制を持ち、製品強化と展開地域の拡大、M&Aに取り組むことで30年度に1200億円に拡大させる目標を掲げる。

     国内ではバイオ農薬への参入が相次いでいる。

     国内農薬最大手の日産化学もその1社。現在、2つのバイオ農薬の候補品があり、27年をめどに圃場試験での薬効確認や工業化プロセスに進め、30年頃の実用化を目指す。同社の農薬関連の売上高は816億円(22年度)。農業化学品事業部事業推進部の中山雅人部長は50年を見据えて「農薬の売上高の半分程度をバイオ農薬で稼ぎ出したい」と話す。微生物の工業生産や候補品の獲得を目指し、M&Aも狙う。 

     三井化学グループで農薬事業を担う三井化学クロップ&ライフソリューションは今年春、千葉県茂原市にバイオロジカルソリューションリサーチセンターを新設した。垣元剛副社長執行役員CTOは「天然物を用いた農薬の基になる化合物を見いだすとともに、微生物を利用した物質生産技術を構築する」と役割を語る。東北大学にも共同研究拠点を設置し、バイオ農薬の開発テーマの探索に取り組む。 

     新たなアプローチで化学農薬の環境負荷を小さくする取り組みもある。

     日本農薬が4月に買収した英インターアグロは農薬を対象作物に付着しやすくするアジュバントのノウハウを持ち、低薬量でも農薬の性能を引き出せる。スタートアップのアグロデザイン・スタジオ(千葉県柏市)は害虫などの標的たんぱく質にピンポイントに作用する「分子標的農薬」の研究開発に取り組んでいる。
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