東京電力パワーグリッド府中変電所のガス絶縁開閉装置
<フォーカス>
電気設備の絶縁材に使われる六フッ化硫黄(SF6)の供給が環境負荷と代替の難しさの間で揺れている。高い地球温暖化係数(GWP)を理由に使用を制限・禁止する自主規制などが進む一方、とくに絶縁ガスとして使われる電気設備用途ではSF6の優れた性能とコスト競争力を同等以上に備える代替製品・技術を開発するハードルが非常に高い。電機設備業界団体が2020年代後半以降をめどに代替製品・技術を実用化するロードマップを掲げるなか、SF6製造業者は歩調を合わせて安定供給を堅持する方針だが、それは需要家の強い要望でもある。
国内SF6メーカーの1社であるAGCは、4月1日出荷分から従来比90%以上の値上げをほぼ打ち出し通りに浸透させたとみられる。事業継続の判断材料にするとして倍近い改定幅を求めたのに対し、需要家は調達危機回避のために受け入れた。SF6はGWPが2万数千で環境負荷が大きいが、主力用途である電気設備向けでは必要不可欠なガスで「使用削減、代替は極めて難しい」ことが背景にある。
発電所から送られてきた高圧電気の電圧を下げる変電所にある遮断器と呼ばれる設備は、電力の送電・停止、切換えに使われ、故障時に回路を遮断する役割を担う。その送電の開閉や回路の遮断に使用される絶縁ガスがSF6だ。
とくに15万ボルト以上の極めて高い電圧の制御が求められる遮断器などの電機設備には絶縁ガスとして「ほぼ100%、SF6が使われている」(日本電機工業会=JEMA)。50万ボルト超の高電圧であっても、電気を切る時に起きる放電を確実に遮断する性能に優れており、コスト競争力と両立し、設備の小型化にも貢献するなど利点が非常に多い。
高いGWPは黙認されてきたわけではない。JEMAは1990年代半ばから漏洩を極小化する自主規制を導入し、今や漏洩率は年2%以下。世界で最も厳格な環境流出管理がされている。それでも、大気寿命が3200年もあるSF6に対する目は厳しく、使用を禁止、段階的に代替製品・技術に切り替える動きが進んでいる。
JEMAは、7万2000ボルト程度の低電圧から最も高い55万ボルトまでの各段階で、代替技術やガスを使う遮断器などを投入する移行に向けたロードマップを22年に策定した。低電圧タイプでは酸素と窒素の混合ガス(ドライエア)で絶縁する代替技術による製品は実用化されているが、困難なのは高電圧を制御する設備だ。ドライエアの絶縁性能はSF6の約3分の1とされ、高電圧を制御するには機器の大型化は避けられず、既存の変電所スペースを活用できなくなる。
JEMAによると、SF6を絶縁ガスに使う遮断器など電機設備は日本が発祥だが、登場した70年代の最初期から高いGWPが問題視されたという。代替ガス・技術を探索する歴史は半世紀に渡るものの、現在まで決め手がなく、代替ガスの探索や技術開発がいかに困難かを物語る。
当時、設置された機器が40~50年の耐用年数を迎え、今後4~5年は変電所設備の更新でSF6需要は横ばいというのが市場関係者の見方だ。さらに、ロードマップで最大送電圧である55万ボルトに対応した代替技術による遮断器を実用化する32年まではSF6の調達・供給は必須。ガスメーカーと需要家との連携も欠かせなくなる。同時に、回収・再利用してバージン品生産を極小化する取り組みが市場関係者には求められそうだ。