4月に育成プログラムがスタートした
<DX最前線>
デンカが全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の担い手となる「デジタルパイロット(DP)」と呼ぶ人材の育成に着手した。2024年4月に育成プログラムがスタート。約1年をかけ必要な要素を学んでもらった後、DPとなった社員がコーディネーター役(調整役)となり、デジタル技術やデータを活用した現場の業務変革を推し進めることを目指す。26年度をめどにデンカ本体の全部署の合計にあたる150人のDPを育成する目標を掲げる。
デンカが育成するDPは、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が「デジタルスキル標準」の中でDX人材の役割や習得すべき知識を定義した「DX推進スキル標準」の人材類型でいう「ビジネスアーキテクト」にあたる。DXの取り組みで目指す目標を明確にし、その実現に向けて関係者を引っ張っていく存在だ。
デンカはDPの役割を「デジタル技術やデータを活用して業務の変革をリードする」と定義。デジタルスキル標準を参考に、DPに求める要件を「デジタルスキル」「マインドスタンス(意識・姿勢)」が一定以上の水準にあり、「変革を具現化できる者」とした。同社の盛岡実デジタル戦略部長は「全社的なDXを推進するうえで『変革が起こせる人財』が必要」と、DPの要件である「変革」に込めた思いをこう語る。
DPの育成に向けた「社内デジタル人財育成プログラム」の流れはこうだ。全社員(4年目以降で課長未満の総合職は必須、その他社員は自薦・他薦で受験可)を対象とするアセスメント(審査)でデジタルスキル、マインドスタンスの2項目を評価。基準点をクリアした社員はDPの候補として次の段階の「スキルアップ教育」に進む権利を得る。基準点に満たない場合も「DXリテラシー標準」に準拠したeラーニング「基礎教育」を受講すれば再受験できる。
スキルアップ教育ではDPを目指すうえで必要なスキルをオンライン学習で学ぶ。半年間受講した後にテストを受け、一定のレベルに到達した社員は最後の「実務教育」へと進む。未達の場合も何度でも再受講が可能だ。
約3カ月の実務教育では社員が持ち寄った実業務の課題を扱いながら、DPに求められる実践的な知識、スキルを習得する。実務教育を修了するとDPに任命され、DPとなった社員にはデジタル戦略部との兼務辞令が出る。デジタル戦略部との緊密な連携を図りやすくすることで、DPが現場で活躍しやすい環境を整えるのが狙いだ。
現在はスキルアップ教育、基礎教育が行われており、それぞれ85人、450人が受講中だ。実務教育は25年1月から始まる予定で、DPの第1期生は来年4月1日付で任命される。当面の目標として、26年度をめどに150人のDPを育成することを目指す。
デンカはDXの推進により30年に目指す姿として「データや生成AI(人工知能)を含むデジタル技術を活用し、新たなサービスや事業を創造するとともに、すべての業務の『無理・無駄・ムラ』が半減している」「業務プロセスの標準化や自動化が浸透している」「ICT(情報通信技術)資産を管理・運用しながら、デジタル戦略につなげ、持続的な発展の仕組みが確立されている」ことを掲げる。生産・技術部やデジタル戦略部などを統括する香坂昌信執行役員は「DXにより、ESG(環境・社会・企業統治)経営の深化につなげる。DPはその先導役を担う」と語る。
デジタル戦略部ではDPの育成と並行し、保有するICT資産の見える化や、その活用を社員に促す啓発活動にも取り組む。人財戦略部主催の社内研修、研究統括部主催の研究成果発表会、新事業創出部主催の新事業創出ワークショップといった社内行事の中にプレゼンテーションの時間枠を設けてもらうなどして、DX推進の意識を全社に浸透させることにも力を入れていく。
デンカは100年を超える歴史を持ち、化学品や肥料、ワクチン・検査試薬など多くの事業を抱える「データの宝庫」(盛岡氏)。だが、現在は多くのデータがサイロ状に分散している。社内外の情報を横断的に検索できる社内システムの構築に乗り出しており、24年度中の稼働開始を目標に掲げる。自社データの連携が容易となることで、異なる事業部門による社内オープンイノベーションが活発化することにも期待する。