• artienceは7月、珠海拠点で正極用CNT助剤の量産を開始した
      artienceは7月、珠海拠点で正極用CNT助剤の量産を開始した
     <中国 逆風下で成長続ける日本企業/上>

     中国では製造業のレベルアップやコロナ禍を経て自国企業・製品を優先する「国潮」トレンドが強まり、とくに自動車や日用品の領域で日本ブランドの地位が大きく揺らいでいる。米中摩擦下で化学・素材メーカーを取り巻く環境も厳しさを増すが、急速に変化するローカルニーズをくみ取って中国企業と取引を増やし、また中国の内と外を結ぶビジネスを伸ばして存在感を発揮する日系企業は少なくない。景気が底を打ちつつある中国で、持続的成長を目指す動きを追った。

     <アプローチが多極化>

     日系スペシャリティケミカル各社は中国で、高度な“合わせ込み”が求められる電子材料市場で成長戦略を描く。その傾向が顕著なのは、中国系エンドユーザーが主導権を握るリチウムイオン2次電池(LiB)。新たな課題へのアプローチが多極化するなかで技術革新への追従スピードが求められ、政府主導の国産化政策への対応を含め、現地生産・現地開発能力の有無が各社の行方を占う要因となりそうだ。

     LiB世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は、中国車に多いLFP(リン酸鉄リチウム)正極材を用いた低容量LiBも生産するが、西側で主流を占めるニッケル系・三元系のハイエンドLiB市場でも存在感が大きい。ハイエンドLiBは高容量化と急速充電性が追求され、各エンドユーザーは正極・負極とも活物質の組成変更を検討。これがバインダー樹脂などファインポリマーに新たな商機をもたらす。

     次世代ハイエンドLiBの負極ではシリコン系活物質の適用がさらに増え、繰り返し充放電による膨張・収縮への対応が必要になる。負極バインダーはスチレンブタジエンゴム(SBR)などが今の主流だが、硬質なアクリル樹脂で膨張を抑える手法が注目される。

     中国市場ではすでにアクリル系の適用が始まったもよう。SBRの置き換えのほか既存組成への添加もあり、アプローチが収れんせず試行錯誤の状況が続く。正極でもアクリルを使った水系プロセスへの転換が試みられ、溶剤系の「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)1択」の状況が変わる可能性がある。

     アクリル重合に強みを持つ日系各社はまず負極向けに商機を見いだす。東亞合成は上海に新設した開発センターを活用し、水性アクリル樹脂の実績化を急ぐ。電極以外でもコーティング用樹脂は重用され、DICは周辺部材に適用するバインダー樹脂について張家港(江蘇省)拠点での生産検討に入った。

     膨張・収縮対策では、カーボンナノチューブ(CNT)導電助剤の改良も求められる。artienceは正極用の事業化を果たしたが、次の目標として負極用水系分散体を開発中。破壊された活物質同士の導電パスをつなげやすい、長尺CNTの利用など複数のアプローチを採る。

     まず米国生産を有望とみるが、将来的には同じ技術傾向が中国生産にも及ぶかもしれない。中国では今年7月に珠海(広東省)拠点からCATLへの正極用分散体の出荷を始めたばかりだが、今後の動向に注目が集まる。

     <おう盛な需要捉える>

     石化産業の再編・改革が進む日本では、国内で生産・調達が困難となる化学品、材料が増えつつある。総合商社は顧客のサプライチェーン(SC)を守るため中国国内でこうした製品を調達し、日本へ輸出している。

     例えば双日(上海)は昨年から今年にかけて中国メーカーと、樹脂原料に使うベンゾグアナミン、塗料などの原料トリメチロールエタンの日本での代理店契約を締結。中国化学本部の黒木稔丈本部長は「日本の石化再編の流れは止まらないだろう。SC安定化のため、すでに複数のプロジェクトが動いている」と語る。

     在中国日系化学メーカーにとって、中国の国産化政策への対応は急務だ。デンカは半導体後工程向け材料の現地生産を検討している。現地法人の電化精細材料(蘇州)は電子包材シート・カバーテープのスリット加工販売、電子包材シートの生産・販売、輸入販売を手がけているが、近く新拠点を設け、おう盛な中国半導体需要を捉える。

     同じく後工程で使用するエポキシ封止材料でトップシェアを握るのが住友ベークライト。蘇州で建設中の新工場が稼働を目前に控える。既存工場の倍程度の広さを確保し、段階的に稼働率を高める。将来は現地でのさらなる投資も視野に入れる。

     レゾナックも中国で半導体後工程材料を増産し、自動車や5G関連、携帯電話向けの需要拡大に応える。エポキシ樹脂封止材は蘇州で生産ライン増強を実施中。追加投資も織り込む。チップと基板など支持体の接着に使うダイボンディング材料は、南通(江蘇省)で投資を予定している。

     LiBバインダーに使うPVDFを現地生産するクレハは、技術開発のギアを上げる。昨年、常熟(江蘇省)の工場内に設置したR&Dセンターは、大手電池メーカーと同規模の試作ラインや、中国で数台しかない特殊な電極物性評価設備をそろえる。オンリーワン技術を武器に、中国LiB業界の最先端を走って行く。また東南アジアなどLiB市場が拡大する海外の顧客フォローも常熟で担い、国内外で存在感を高める。
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