培養人材を育成するための拠点整備が進む(大阪工業大学バイオものづくりラボの30リットル培養装置)
<実用化迫る革新技術 「化学の日」週間連載/5>
微生物や酵素をゲノム編集技術などにより改変し、目的に適う物質を生産する「バイオものづくり」が注目されている背景には、カーボンニュートラルや石油由来のものづくりからの脱却といった環境要因と、新規の有用物質を生み出すための新しいプラットフォームとしての技術革新要因がある。国もバイオエコノミー戦略のなかで重要産業の一つに位置づけ、グリーントランスフォーメーション(GX)基金やグリーンイノベーション(GI)基金などを通じた支援を強化。スタートアップやアカデミアと民間企業のコラボレーションが活発化している。
日本は、酒や醤油、味噌など発酵食品の文化が豊かだ。そのため発酵を利用するバイオものづくりの産業化を目指すうえで、半導体やIT関連の産業で世界に後れを取ったことを反省材料とし、世界をリードしていくと意気込む関係者は多い。
国際競争力の観点からみると、菌株探索、選定、改変の育種ステージでは、製造まで含めた一貫体制を敷くバッカス・バイオイノベーションやグリーンアースインスティテュートなどのバイオファウンダリーをはじめ、強みを持つスタートアップが育っている。育種に強みを持つバッカスの近藤昭彦社長は、「育種のDBTL(設計・構築・評価・学習)を高速で回せる企業は世界でも限られている」と強調する。
微生物を培養する栄養である培地の組成を人工知能(AI)による機械学習で最適化し、培養効率を高めるアルゴリズムの構築も進む。欧米を中心に海外でスタートアップが群雄割拠する状況下にあっても、研究に取り組む北見工業大学の小西正朗教授が「競合はいない」と話すように、アーリーステージの技術力の裾野の広さをみても、世界に引けをとらない。
原料面では、持続可能な航空燃料(SAF)用途でプロジェクトが進む非可食資源である製紙産業のパルプ由来の糖の活用も期待できそうだ。未利用資材の活用、日本独自のプロジェクトである、水素細菌を宿主に二酸化炭素(CO2)を原料として利用する検討も進められている。
菌体開発が盛んな一方、後工程の培養には課題もある。ラボで開発した菌体のスケールアップには考慮すべきパラメーターが多く、技術的難易度が高い。それに加えて培養の人材が不足している。この数十年、大学の研究者は論文執筆のため最先端分野に集中したからだ。
これによりゲノム編集などによる菌体開発では研究が進展したが、その反動で地味で困難、かつ、もともと日本が強かった培養を知る人材は減少。発酵に強い企業は海外に生産シフトし、「培養を教えられる人も場所も減った」(大阪工業大学の長森英二教授)。中国では製造工程に大規模な投資をしているといわれており、育種は日米が先行しているものの、国際競争力の観点では培養工程の強化が求められる。
こうした課題を踏まえ、NEDOプロジェクトを中心にスケールアップの受託拠点の整備が各地で進む。今後、実地に培養設備を用いた試行錯誤を繰り返すとともに、AIやセンシングなど最先端技術も活用した培養の知見の蓄積が期待される。
素材のバイオ化はエンドユーザーの要求でもあり、バイオものづくりはその手段としての有力候補。このため大手化学をはじめ、多くの企業による次世代の製造法、あるいは新規事業創出の鍵として研究が本格化しつつある状況だ。バイオインダストリー協会(JBA)による社会実装エコシステムを構築するフォーラムの発足も控えている。日本が強靱なバリューチェーンを有する世界の一大製造拠点となれば、日本のものづくりの未来は明るいものになる。(おわり)
(岩﨑淳一、井上諒、多賀恵子、佐藤大希、中尾祐輔、髙橋善治、佐藤尚道が担当しました)