• 酵母を用いて生産する天然由来の界面活性剤「MEL」
      酵母を用いて生産する天然由来の界面活性剤「MEL」
     <バイオものづくり>

     東洋紡は、バイオものづくりに本腰を入れる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、酵母が生産する天然由来の界面活性剤「マンノシルエリスリトールリピッド」(MEL)の連続培養および高収率な分離・精製・加工技術の構築を目指す。MELは用途として農薬の使用量低減に寄与する展着剤などを想定し、ブラジルでの顧客評価も着々と進む。一方、天然由来の界面活性剤の定義付けや認知拡大に向けては企業、研究機関などが集まる「バイオサーファクタント勉強会」での情報発信にも力を注ぐ。MELをグローバルで勝負できる素材と考え、今後は国際標準化など出口戦略にも意識を向けていく。

     天然由来の界面活性剤はバイオサーファクタントとも呼ばれ、バイオマスを原料に細菌や酵母などの微生物が作りだす化学品。東洋紡が商業生産を目指すMELも酵母生産によるバイオサーファクタントの一種だ。MELは、石油由来の合成界面活性剤と比較して低濃度でも優れた界面活性や安全性、生分解性が高いことが分かっている。2009年には産業技術総合研究所(産総研)と共同でMELを応用した化粧品原料「セラメーラ」を開発し、MELの生産技術などに関する特許も多く持つ。一方、少量生産のため高コストという課題があった。

     こうしたなか、同社は22年策定の長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」でサステナビリティ対応を強く打ち出し、MELの経済的な生産技術に挑戦するバイオものづくりにも重点を置き始めた。NEDOプロジェクトである「バイオものづくり革命推進事業」には23年度に採択された。期間は最長で8年だが、2~3年ごとの審査で次のステージに進めるかはNEDOが判断する。最長まで進んだ場合は、計50億円規模の支援を受けられる見通し。

    • 試験製造設備で連続培養および高収率な分離・精製・加工技術の構築を目指す
      試験製造設備で連続培養および高収率な分離・精製・加工技術の構築を目指す
     今後はMELの連続培養や分離・精製など生産面の技術確立とそれにともなう設備投資が大きな課題だ。現状は敦賀事業所(福井県敦賀市)内に設けたラボスケールの連続培養設備で、生産に問題がないことを確認。一方、スケールアップした連続培養装置は既存品で対応が難しいことも想定され、装置メーカーとの協力もカギを握りそう。

     大規模生産を想定した連続培養設備の総投資額は同社によると「2ケタ億円後半」を見込み、設置場所は国内で検討中だ。設立時期は30年度近傍を計画している。

     MELの生産に当たっては未利用資源である廃食油を原料に活用することで、環境負荷低減とコストダウンの両立を狙う。足元では複数の廃食油を使って評価した結果、生産に大きな問題がないことがわかった。今後は廃食油の価値上昇にともなう調達コストのアップも想定し、別の未利用資源も探索していく方針。またMELの高生産菌開発では、主に産総研がバイオインフォマティクス技術による遺伝子操作で、より優れた酵母の取得を進めている。

     MELの用途は農薬用展着剤や飼料配合剤、衛生材向けコーティング剤などを検討する。なかでも化学農薬の使用量低減に寄与する展着剤は、複数の顧客から高い評価を得るなど、評価期間後の採用が期待できそうだ。飼料配合剤は、牛のげっぷに含まれるメタンの排出抑制につながるなど、北海道大学との共同研究で有意な知見が出はじめた。コーティング剤用途では肌のかぶれ改善が期待できることから、需要が増える大人用紙おむつもターゲットの一つと捉える。MELは保湿性に優れる特徴があり、肌に触れる製品への適用も選択肢となりそうだ。

     MELの連続培養などを主導する同社バイオ開発部の荒川琢部長は「バイオ由来の製品だから採用してもらえるほど甘くない。機能や価格などコストパフォーマンスに優れた製品として市場投入を目指す」と力を込める。生産技術の開発と並行しMELの認知度を上げる活動も、バイオサーファクタント勉強会などを通じて積極的に進める。
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