• 炭素繊維は、発がん性などのリスクがあるとされる「WHOファイバー」の領域からも外れている
      炭素繊維は、発がん性などのリスクがあるとされる「WHOファイバー」の領域からも外れている
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     自動車用炭素繊維について、欧州連合(EU)が原則禁止を検討しているとの報道が波紋を呼んでいる。炭素繊維のトップメーカーである東レをはじめ、三菱ケミカルグループ、帝人もポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の大手メーカーとして、自動車用途を含めて幅広く同事業を展開しているため、株価の面でも大きく反応した。廃棄時の細かく粉砕された繊維が人体に悪影響を及ぼす可能性があることが、検討の遡上に上げられたことの根拠となったが、これまでのさまざまな研究では有害性が確認できないとの報告もある。炭素繊維メーカーは業界団体などと連携して科学的な知見に基づく情報を強力に発信していかなければならない。

     廃棄車のリサイクルを規定するELV指令の改正に向けた協議のなかで、欧州議会が指令の改正案として提出したもの。「実際には禁止ではなく、使用量の制限。それも案の段階」(日本のメーカー)でもあり、この案が全面的に成立したとしてもどこまでのビジネス影響があるのかは明確にはわからない。しかし、東レは欧州のプリプレグ子会社などを通じて高級車向けに一定のビジネスを確立しているうえ、今後も拡大を図っていく。三菱ケミカルもイタリアのシートモールディングコンパウンド(SMC)拠点およびプレス拠点を活用して大きく拡大するビジネスモデルを描いている。帝人も複合成形材料事業の主力である北米事業については売却を完了したが、欧州には引き続き拠点を構えている。同事業はもともとガラス繊維を用いたSMCのプレス成形が主体だったが、炭素繊維の活用にも取り組んでいる。こうしたことから各社とも影響は免れないものとみられる。

     ただ、炭素繊維はかつてのアスベスト問題のような人体への有害性(発がん性)について確認されないとの報告もある。標準的なPAN系炭素繊維は直径が5~7マイクロメートルと十分に太く、アスベストなどの繊維状物質を評価・規制する際に世界保健機関(WHO)が定めた分類基準に合致する繊維を指す「WHOファイバー」に含まれない。つまり0・3マイクロメートル以下で十分なアスペクト比を持つ場合にマクロファージが貪食しきれない問題につながらない。また加工時や廃棄時に微粉砕されたものも研究対象となっており、「PAN系炭素繊維は、軸方向に劈開しないためアスペクト比が3以上になりにくく、発がん性が低いと考えられている」という意見もある。2008年に炭素繊維協会が行った複合材料セミナーで講演した慶応義塾大学の大前和幸氏は、「現状の条件であれば炭素繊維曝露による呼吸器影響発生リスクは小さい」と報告している。それ以外でも大学や公的研究機関などでの研究報告がなされている。

     発がん性に関する繊維状物質への規制では、カーボンナノチューブ(CNT)でも欧州で議論されており、日本ゼオンなどが科学的議論の蓄積をもとに誤解を正すための活動を続けている。
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