治験で移植細胞の生着とドパミン産生が確認されたと説明する髙橋淳CiRA所長(左)
<再生医療 日本発・世界初に挑戦/1 実用化へ高まる機運>
ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた研究開発が、実用化段階に近づいてきた。京都大学は、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を用いたバーキンソン病治療薬が医師主導治験で安全性と有効性を示唆するデータを得られたと報告、連携する住友ファーマが目指す今年度内の承認取得に弾みを付けた格好だ。8日には大阪大学発ベンチャーのクオリプスが心筋細胞シートで、iPS細胞由来製品初となる承認申請を実施した。2006年に京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞を作り出したと発表してからまもなく20年。海外勢も国を挙げて臨床開発を急ぐなか、世界初のiPS治療の実現に向け、開発競争が熱を帯びてきた。
【関連記事】再生医療の現在地と課題、有識者2人に聞く 京大医学部附属病院はこのほど、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と18年から実施してきた、パーキンソン病を対象としたドパミン神経前駆細胞の医師主導治験を終了した。7人の患者を対象に、健常人ドナーの血液から作製したiPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内に移植投与。2年間の観察期間を経て重篤な有害事象は発生せず、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示された。有効性評価対象となった6人のうち4人が、パーキンソン病の運動症状の評価尺度で既存の薬剤治療の効果が切れている時のスコアが改善した。これらの研究成果は英国時間16日付の英科学誌「Nature」に掲載された。
京大はこのほど開いた記者会見で、主要評価項目としていた安全性の確認と副次項目の有効性が推定されたと説明。治験結果に基づき、住友ファーマは25年度中の条件及び期限付き承認の取得を目指す。CiRAの髙橋淳所長は「早ければ年内にも承認を取得したいと思っている」と期待を示した。米国医師主導治験と住友ファーマによる米国企業治験が並行して開始しており、日米での薬事承認取得を目指す。
治験責任医師の髙橋良輔京大総合研究推進本部特定教授は「薬剤効果が切れた状態で運動症状が改善するのは従来治療にない効果。患者本来の身体の状態が改善している」と評価した。
iPS細胞由来の心筋細胞シートの承認申請にこぎ着けたのがクオリプスだ。心筋梗塞や狭心症など心臓移植にいたる前の重い心不全治療を対象とするもので、他人のiPS細胞から作製した心筋細胞を0・1ミリメートルのシート状に加工し、患者の心臓に直接貼り付けることで心機能の改善や心不全の回復効果が期待できる。
同社は20年1月から23年3月にかけ、阪大医学部附属病院中心に4施設で8例の医師主導治験を実施。草薙尊之社長は「ようやく第一歩を踏み出せた。条件及び期限付き承認を想定して26年頃の承認取得を目指す」と胸をなで下ろす。
再生医療は山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した12年から研究が活発化し、国も22年度までの10年で約1100億円を投じた。国立医薬品食品衛生研究所によると国内でiPS細胞を使った治験や臨床研究は24年10月時点で17件に上る。
今年に入っても、慶応義塾大学が3月、脊髄を損傷した患者にiPS細胞由来の神経前駆細胞を移植した臨床研究で安全性を確認したと発表。今月14日には京大医学部附属病院が免疫異常などで発症する1型糖尿病について、iPS細胞から血糖値を下げるインスリンを分泌する細胞を作って移植する治験を開始した。
iPS細胞の技術開発は日本がリードしてきたが、その研究成果をみて、海外勢も猛烈な追い上げをみせている。中国では24年秋、iPS細胞由来の膵島細胞を糖尿病患者に移植して回復がみられたとの論文が発表された。25年初にはドイツの研究グループが、心臓細胞から作った心筋組織をパッチ状に加工して重度心不全患者へ移植し、症状が改善したとしてNatureに論文を載せた。各国が実用化一番のりを競い、開発にしのぎを削る。