<ドイツ化学産業の行方 エネルギー高騰と官僚主義の壁を越えて/上>
かつて世界をリードしてきたドイツの化学産業は、今、深刻な課題に直面している。ロシア・ウクライナ戦争を契機としたエネルギー価格の高騰に加え、主力需要先である自動車産業の不調が収益を圧迫している。今後の見通しについて、ベルリンのドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)本部で、化学部門シニアマネージャーのトルステン・ブーグ氏に話を聞いた。
◆…ドイツの化学産業の現状をどのように見ていますか。
「生産は2023年から24年にかけて4%増加したが、価格は同時期に2・5%下落し、結果として収益は4%減少した。稼働率は約75%にとどまった。25年の見通しも明るくない。化学企業の50%が24年と比べて生産量が減少すると予測しており、横ばいと見るのが25%、増加を見込むのはわずか25%だ」
<特殊化学品に集中も>
◆…投資の動きに変化はありますか。
「全体として、国内投資を減らし、海外投資を増やす傾向が強まっている。国内投資を増やす予定の企業は25%にとどまり、40%は削減を予定している。一方、海外投資を増やすと回答した企業は46%にのぼり、減らすとした企業は16%だ」
「24年12月にドイツ化学工業協会(VCI)が行った調査では投資先についての具体的な記述はないが、多くの企業が米国に注目していると見ている。背景にはインフレ抑制法(IRA)の影響がある。中国南部の広東省で100億ユーロの投資を行う長期計画を進めているBASFを除けば、大きな投資の動きはみられない」
「基礎化学品への投資は、19年には全体の3分の1を占めていたが、現在は10分の1まで減少している。ドイツの企業は、自社消費分のみに絞って生産するか、サウジアラビアなどから安価に調達する方針に転じている。この傾向は今後さらに強まり、資金は特殊化学品に向かうだろう。新たな工場建設は見込めないが、既存設備の拡張は主にデボトルネッキングにより進むと思う」
<書類量の多さが負担>
◆…ドイツの化学企業が直面している課題について教えてください。
「VCIからの聞き取りでは、官僚主義が大きな障害のひとつとされている。求められる書類の量が非常に多く、企業にとって大きな負担となっている。新しい設備の認可にも時間がかかりすぎる」
「さらに、エネルギー、人件費、税金などのコストも高く、これも企業活動の足かせとなっている。それに比べれば、原材料価格の高さは大きな問題ではない。市場はグローバルであるため、どこで買っても価格に大差はない」
◆…需要の回復は見込めますか。
「需要の先行きは不透明だ。5年前はリチウムイオン電池(LiB)関連材料の需要が大きく伸びると見られていたが、今ではそうした動きは完全に止まっている。EU加盟国が経済支援を打ち切ったことで、状況が一気に悪化した」
◆…企業はどのように対応していますか。
「効率や生産性の向上に向けて、再構築や投資が進められている。人員削減や工場閉鎖といったコスト削減策も講じられている。もちろん、新たな市場や技術の模索も常に行われている」