• 環境課題 連載
  • 化学産業の現在地 アンモニアから電熱クラッカーへ
  • 2025年10月20日
    • ダウのシードリフト拠点に建設する小型原子炉の完成予想図
      ダウのシードリフト拠点に建設する小型原子炉の完成予想図
     <昭和100年 化学産業の現在地/1>

     1926年、「東工試法アンモニア合成技術」が完成した。食料生産を支える肥料の原料となるアンモニアを大量に合成する技術だ。20世紀初頭は、ドイツのハーバー・ボッシュ法を皮切りに、欧米各国が次々とアンモニア合成技術を開発していた時代。「東工試法」の完成は、国産の化学技術が初めて世界と肩を並べた瞬間だった。

     カギとなったのは触媒の開発。製鉄所で廃棄されていた鉄の酸化物を原料に、苦心の末、安価で高活性な触媒を生み出した。この年の暮れに、元号は昭和に変わる。

     廃棄物の高付加価値化は化学産業の真骨頂。日本でも、銅製錬過程で発生する煙害への対策として、亜硫酸ガスを原料とする肥料産業が興り、製鉄業で燃料や還元剤として利用されるコークスの副産物を活用することで石炭化学が始まった。

     この伝統は、燃料として価値が低かったナフサを原料とする石油化学へと受け継がれ、さらに循環型社会への転換が求められる現在では、廃プラスチックのケミカルリサイクルにまで展開されている。

     ケミカルリサイクルのなかでも油化法は混合廃プラを分別せず処理できることや既存のナフサ分解炉に投入できることから石油化学・石油精製企業にとって有利な手法で、実用化への挑戦が始まっている。三菱ケミカルグループは英ムラ・テクノロジーの技術を導入し、ENEOSと共同で今年、茨城に廃プラ処理能力2万トンの油化設備を竣工。出光興産子会社のケミカルリサイクル・ジャパンは千葉に2万トン設備を設置し、来年の商業運転開始を予定する。

     廃プラスチックの原料利用は世界的な流れ。延長線上には、製造プロセス自体の脱炭素化が位置づけられる。石油化学の中核であるナフサクラッカーは現在、燃料として化石資源を燃焼させ高温を得ているが、これを電熱化(電炉化)する取り組みが欧州を中心に進んでいる。

     BASFとSABIC、リンデは24年4月、世界初の大規模な電熱式スチームクラッカーの実証プラントをドイツのルートヴィッヒスハーフェンにあるBASFのフェアブント(統合生産拠点)で立ち上げた。クリーン電力を利用することで、天然ガスといった化石燃料で加熱する従来のスチームクラッカーと比較して、CO2排出量を少なくとも90%削減できる可能性がある。ダウもシェルとともに電熱式クラッカー導入を検討する。

     電熱化による脱炭素化にはクリーン電力の確保が必須。再生可能エネルギーだけで化学品生産を脱炭素化する可能性は、必要なエネルギーの膨大な量によって制限されるとの指摘もある。

     こうしたなか注目されるのが核エネルギー。ダウは子会社、ユニオンカーバイドの米テキサス州シードリフト拠点に次世代原子炉である小型モジュール炉(SMR)4基を建設する。

     老朽化した既存のエネルギー・蒸気設備に代わりX―エナジーのSMRを導入し、安全で信頼性が高いクリーンな電力と工業用蒸気を供給するプロジェクト。20年代後半に着工し、30年代初頭にも稼働する可能性がある。ダウでは、信頼性が高く、コスト競争力のある原子力エネルギーへのアクセスを拡大する重要な一歩と位置付けている。

     今年は昭和100年、戦後80年にあたる。この間、化学産業は幾度も技術革新を遂げ、社会課題解決に重要な役割を果たしてきた。きょう20日から26日は化学週間。連載企画を通して、化学産業の現在地を確かめ未来を探る。
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