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  • 住友化学、医薬・石化にメス 課題事業の「膿」出し切る
  • 2024年5月1日
    • 組織再編し、アグロ&ライフとICTを成長ドライバーに
      組織再編し、アグロ&ライフとICTを成長ドライバーに
     住友化学が苦境に陥っている医薬と石油化学事業の再興に向け、メスを入れる。医薬は子会社住友ファーマのコスト削減などで合理化を図り止血することに加え、長期的に出資比率引き下げも選択肢として最適な体制を検討する。石化はサウジアラビア拠点のペトロ・ラービグで、合弁相手サウジアラムコと共同でタスクフォースチームを立ち上げ、収益改善に乗り出す。課題事業の膿(うみ)を出し切って基盤を強固にするとともに、農薬と半導体材料などをけん引役とする戦略を推し進め、再成長軌道への回帰を目指す。

     30日、2024年3月期業績予想で最終損益を3120億円の赤字(前期は69億円の黒字)に下方修正した。住友ファーマの子宮筋腫治療剤「マイフェンブリー」の減損損失などを織り込み、赤字幅が従来予想から670億円広がる見込み。岩田圭一社長は同日の会見で「24年度に計画するコア営業利益1000億円のV字回復に向けた再興戦略と、10年、20年後もグローバルに存在感のある企業であり続けるための成長戦略の両建てで構造改革を進めている」と強調した。

     医薬事業は住友ファーマが基幹製品と位置付けたマイフェンブリーなど3品目の拡販と、販管費や研究開発費の合理化でコストを削減し止血する。23年度1330億円の赤字となるコア営業利益を24年度で黒字化することを目指す。

    • 会見する岩田社長
      会見する岩田社長
     ただ、岩田社長は「より強力な持続的成長を実現するためにさらなる手だてが必要」と述べ、あらゆる選択肢を含めて対策を検討する方針を示した。住友ファーマの株式51%強を保有するが、出資比率引き下げなどは「目的ではない」としたうえで、将来的に住友ファーマにとって切り離すことが最良であれば「結果としてそうなるかもしれない」と語った。

     石化はペトロ・ラービグの収益力強化に短期集中で取り組む。石油精製と石化を統合した大型プロジェクトを第2期まで立ち上げ、住友化学の「最大の役割であった技術移転を完了し、アラムコと戦略上の立ち位置の違いが出てきた」。2月にトップ会議を開いて課題を共有し「共同タスクフォースチームを立ち上げた」と明かした。

     同チームで石油精製の高度化などを検討、実行する計画だが、住友化学は「追加の資金支出はしないと明確に打ち出している」。アラムコとのラービグに対する姿勢の違いが顕在化するなかで、長期的な施策も含め議論し「できれば1年以内に何らかの方向性を打ち出したい」考え。

     石化国内事業は、エチレン設備の合理化を24年度中に、ポリオレフィンなど川下の再編を24年上期中にめどをつけたい意向。シンガポールの石化拠点も、ナフサ分解炉運営会社でシェルなど親会社が参画する構造改革会議体を設立し、近隣プラント統廃合のシナリオ分析に基づいた最適化を検討する。

     一方、成長戦略は食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4領域を重点に据える。現行で各部門が成長を目指してきた結果、「経営資源が分散された」ため、重点領域にひも付いた4事業部門に組織再編し10月からスタートする。

     農薬を中心とするアグロ&ライフソリューションと、半導体材料などのICTソリューションが成長ドライバーで、30年までの戦略投資枠6900億円のうち、約8割を両部門に振り向ける。農薬は化学農薬とバイオラショナル・ボタニカルなどの天然物のハイブリッドで優位性を確立し事業を拡大する。ICTは半導体製造用薬品やフォトレジストを軸にビジネスモデルを深化する。それぞれ30年にコア営業利益1000億円レベルを狙う。全社ではROI(投下資本利益率)7%以上を目標に掲げる。

     さらにアドバンストメディカルを次世代の柱に育成する。再生・細胞医薬をコアとし、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の実用化と開発・製造受託(CDMO)で先行する強みを発揮する。住友化学と住友ファーマで24年度中に新会社を設立し、日米での事業展開を加速する。岩田社長は「再生・細胞医薬の別会社化で、副次効果として住友ファーマの研究開発費のさらなる減少につながる」と説明した。

     新たな組織で成長戦略を推し進めるためにも、石化とファーマの再興が喫緊の課題となる。短期的なV字回復にとどまらず、持続的成長への明確な道筋をつけられるか-、再建に注目が集まる。
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