• 直径6インチ、8インチの多結晶SiCウエハーを供給する
      直径6インチ、8インチの多結晶SiCウエハーを供給する
     東海カーボンは半導体材料分野に参入する。次世代の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の支持基板となる多結晶SiCウエハーを開発、フランスの半導体材料大手のソイテックと中長期の供給契約を結んだ。東海カーボンは主に半導体製造装置部材に使われる超高純度SiC製品を手掛けるが、電気自動車(EV)などで需要が増えるSiCパワー半導体材料への進出で収益源の多角化を図る。

     両社は4月2日付で戦略提携を結んだ。東海カーボンは円盤状に薄く加工した直径6インチ(150ミリメートル)、8インチ(200ミリメートル)の多結晶SiCウエハーを供給する。ソイテックが同材料の供給契約を結ぶのは、仏炭素製品メーカーのメルセンに続き今回が2例目。

     東海カーボンは化学的気相法(CVD)と呼ぶ成膜技術で主に半導体製造装置部材に使われるソリッドSiC、SiCコートカーボンといった超高純度SiC製品を手掛ける。そこで培った技術を生かし、多結晶SiCウエハーに求められる電気特性や平面特性を高める工夫によって生産技術を確立した。

     ソイテックは支持基板上に絶縁膜を作り、そこに回路を形成する単結晶のシリコン(Si)層を貼り合わせて1枚のウエハーにするシリコン・オン・インシュレーター(SOI)と呼ぶ高性能半導体ウエハーの大手。SOIは高速動作や低消費電力が特徴で、スマートフォンなどに使う通信用半導体が主な用途だ。

     ソイテックは単結晶の超薄膜を切り出し、支持基板と貼り合わせる独自の加工技術を用いてSiCパワー半導体ウエハーの供給に乗り出す。多結晶SiCウエハーの支持基板上に薄く切り出した単結晶SiCを貼り合わせて1枚のウエハーにしたもので、フランス南東部グルノーブル近郊のベルナンで2023年に専用の新工場を立ち上げた。

     電力制御に使うパワー半導体の中でもSiC製は主流のSi製に比べ高温、高電圧下での耐久性、電力変換効率に優れ、インバーター(電力変換器)や車載充電器などの高効率化、小型化につながる。SiCパワー半導体に切り替えることでEVの1回の充電当たりの航続距離が5~10%延びるといった試算もあり、米テスラなどの自動車メーカーの間で採用が広がる。富士経済はSiCパワー半導体の世界市場が35年に23年比8・1倍の約3兆円に拡大すると予測する。

     SiCパワー半導体向け単結晶SiCは一般に2000度C以上の高温で結晶を成長させる昇華法で作られる。生産に時間が掛かり多くのエネルギーを消費するほか、歩留まりが悪くコストがかさむといった課題がある。

     単結晶SiC単独ではなく支持基板に多結晶SiCを使うことで、単結晶SiCの一つのインゴット(塊)から多くのSiCパワー半導体ウエハーの生産が可能になり生産効率が高まるほか、製造工程の二酸化炭素(CO2)排出量は約4分の1となる。多結晶SiCの電気抵抗値は単結晶SiCの5分の1~4分の1程度と小さく、電力損失が減らせる利点もある。

     東海カーボンは超高純度SiC製品を生産するCVD装置を日韓米の3拠点に構え、多結晶SiCで世界最大の生産能力を持つ。多結晶SiCウエハーの生産にあたっても既存設備を活用できるのが強みだ。

     さらに今後の多結晶SiCウエハー市場の広がりを見据え、茅ヶ崎研究所(神奈川県茅ヶ崎市)で54億円を投じ、専用ラインを設ける。建屋を新設し、CVD装置、インゴットからウエハーを切り出す加工機などを導入。24年12月の完成予定だ。

     東海カーボンの半導体製造装置部材などを手掛けるファインカーボン事業は半導体の製造でシリコンウエハーに微細な回路を掘るエッチング工程で使うソリッドSiC製フォーカスリングが稼ぎ頭で、売上高に占めるメモリー半導体向けの比率が高い。EVの普及などで高い成長が見込まれるSiCパワー半導体材料という新たな収益の柱を立てることで事業の多角化を図り、収益基盤の強化につなげる。
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