• インタビューに応える岩田社長
      インタビューに応える岩田社長
     住友化学は、農薬と電子材料で中長期の成長を図る。天然物由来などの環境負荷の低い農薬で世界展開を進めるなか、M&A(合併・買収)を駆使して手薄な欧州に橋頭保を確保し本格参入を狙う。菌を利用した微生物殺虫剤の取得や、インドやブラジルの製造拠点拡張も計画する。電子材料の柱である半導体材料は次世代EUV(極端紫外線)向けレジストで勝負に出る。成長ドライバーの2事業に経営資源を厚く配分し、それぞれ2030年度コア営業利益1000億円を目指す。

     24年3月期業績は医薬品と石油化学の低迷で最終損益が3118億円の赤字に陥った。収益のV字回復に向けた短期業績改善策と、再興戦略および成長戦略からなる抜本的構造改革を同時に進め、成長戦略は農薬をはじめとした農業資材などのアグロ&ライフソリューションと、半導体材料などのICTソリューションをけん引役に位置付けた。岩田圭一社長はインタビューで、2事業について「一段とアクティブに動いており、成長投資は緩めない」と強調した。

     30年度までに戦略投資枠6900億円を設け、約8割をアグロ&ライフ、ICTの2部門に振り向ける計画。集中的な投資で成長を加速する。

     農業資材は、天然物由来などの微生物農薬、根圏微生物資材といったバイオラショナルで拡大戦略を加速し世界市場で存在感が高い。中南米、北米、インド、日本で事業基盤を整備してきたが、「欧州が不十分」。欧州は農薬メジャーの牙城だが、化学農薬から天然物由来へニーズがシフトしている機を捉え本格参入する。販売や物流、R&D(研究開発)を含め橋頭保を確保する考えで、「時間を買う意味でもM&A」を狙う。

     製品群は、作物や土壌が本来持つ力を引き出す効果を有する天然物由来農業資材のバイオスティミュラントを獲得するなど幅を広げている。さらに、有用細菌を利用した微生物殺菌剤であるバチルス・チューリンゲンシス(BT)剤の拡充も視野に入れる。

     供給網の強靱化にも資金を投じる。日本のほか、インド、ブラジル、米国に生産拠点を保有し、とくに「インドやブラジルの工場を他地域への供給基地として拡充していくのが重点テーマの1つ」。

     他方、半導体材料は研究開発に力を注ぐ。カギは次世代EUV向けレジスト。次世代EUV露光機は27年以降、開口度(NA)が高まり、これまでの延長線上にないレジストが求められる。住友化学は「金属ではなく、低分子レジストで競争優位性を確立する」方針。開発品は好評とするが、「開発競争に勝ち残ることが(半導体材料で)コア営業利益1000億円の達成に必要」と力を込める。

     住友化学の半導体材料は、フォトレジストのほかアンモニア水など製造用高純度薬品を手がけ、前工程がメイン。今後は後工程でも積極展開し事業拡大につなげる。

     後工程では、ウエハーの裏面を研磨するプロセスで硬質な基板とウエハーをグルー(のり)で接着するため、研磨後にそれを剥がす必要がある。ダメージを与えず、きれいにグルーを除去するクリーナーで「すでに複数の顧客に採用実績があり、ここから後工程に本格参入する」。
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