• 資源循環
  • 川崎市とレゾナック、海洋プラごみCR実証を開始
  • 2024年6月11日
    • KPRのガス化プラント
      KPRのガス化プラント
     海洋プラスチックごみを化学品の原料や水素にリサイクルする実証実験が川崎市でスタートした。ポイ捨てや路上のごみが海に流れ込むことなどにより発生する海洋プラごみは同市の社会課題の一つ。その解決に向けて、レゾナックとタッグを組む。使用ずみプラをガス化するケミカルリサイクル設備として世界で唯一、長期運転の実績を持つ同社川崎事業所の「川崎プラスチックリサイクル(KPR)」を活用し、海洋プラごみのリサイクルの可能性を探る。

     現在、世界には1億5000万トンの海洋プラごみが存在するとされ、年間800万トンが新たに流入しているというデータもある。50年には魚の量をプラスチックが上回るという試算が出されるなど、海洋プラごみ問題は深刻化している。

     海洋プラごみの課題と苦闘するのは、東京湾に接する川崎市も同じだ。市は川崎港内を清掃船で巡回して流木やごみなどを回収している。ただ、海洋プラごみは紫外線や風雨による損傷や汚れ、海水影響による塩分濃度などの性状面から、その多くがリサイクルされず焼却処理されている。海洋プラごみの資源循環に向けて白羽の矢が立ったのが市臨海部のコンビナートに立地するKPRだ。

     KPRは2003年に稼働を開始し、昨年20周年を迎えた。容器包装プラなどを化学原料にケミカルリサイクルするプラントで、1日に200トン、年間では7万トン強の処理が可能だ。

     プラごみを円筒状に成形したうえで炉に投入し、低温ガス化炉と高温ガス化炉でガス化する。洗浄工程を経て水素と二酸化炭素(CO2)の合成ガスが作られる。その後、主に水素は空気中の窒素と反応させることでアンモニアになり、CO2は隣接する子会社工場でドライアイスや液化炭酸ガスの原料になる。

     今回の実証実験では、市が川崎港で回収したプラごみをKPRに投入し、リサイクルの可能性を検証する。25年3月末までに4回に分けて実施する。通常のプラごみと並行して、一度に20キログラムの海洋プラごみを投入する計画だ。

    • 海洋プラごみを投入するようす
      海洋プラごみを投入するようす
     市は1日に2回、川崎港を巡回する。プラごみの他にも、金属、流木、布類、ゴム類といった多くのごみがあり、回収は重労働だ。ごみの回収量は天候により左右され、とくに台風や大雨の後などは多くのごみが多摩川を通じて海に流れ込む。プラごみのなかではペットボトルやバケツなどが多い。市から委託を受けた事業者が分別を行った後、リサイクルに適したものが川崎事業所に運ばれる。

     KPRは他のケミカルリサイクルのプロセスに比べて、塩分の高いプラごみが処理できるのが強みの一つ。海洋プラごみには海水の塩分が大量に付着しているが、今回の投入量であれば問題なく処理できるという。

     本格的な海洋プラごみのケミカルリサイクルに向けた課題の洗い出しが実証実験の目的だ。例えば、通常は廃棄物の運搬に市の許可が必要で、手続きなどの手間がかかることが予想されている。他にも現段階では分かっていない課題がみえてくる可能性が高いという。

     先月30日に報道陣に公開された実証実験で、レゾナックの伊東浩史プラスチックケミカルリサイクル推進室長は「社会課題にアプローチするうえで、やってみないと分からない部分が多い。まだ見えていないハードルを可視化するのが目的だ」と意気込みを語った。

     KPRで作られた水素は大部分がアンモニアの原料となるが、一部は水素として利用されている。その一つが多摩川の対岸、羽田空港を望むキングスカイフロント地区にある「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」だ。川崎事業所からパイプラインで水素を運び入れ、燃料電池(FC)の燃料として使用する。ホテル全体の電力使用量の2割を水素エネルギーで、残りの8割は廃棄食品を使ったバイオマス発電で賄っている。

     「CO2フリー電力ホテル」を標ぼうする同ホテルは、川崎市が構築を目指す水素サプライチェーン(SC)の一角を担う。同ホテルで販売促進を手掛ける佐田大樹氏によると「顧客の反応は良好」という。そのうえで「過去に環境汚染で苦しんだ川崎市だからこそ、環境に配慮した取り組みを行う意義がある」とも語る。川崎市全体で、社会課題解決に向けたアプローチが進んでいる。
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