高純度三酸化アンチモン「PATOX-SUF」の粒状品
創業90周年を迎える日本精鉱が、事業ポートフォリオの強化に向けてギアを上げる。2025年度に難燃剤や難燃樹脂マスターバッチの新製品を立ち上げる計画で、電池材料などの開発にも力を注ぐ。中瀬製錬所(兵庫県養父市)では26年度中に半導体原料や触媒などに使われる高付加価値なアンチモン製品の生産能力を増強する。4月に発足した技術開発部を推進役として、新製品の事業化や生産の高度化を推し進める。
25年4月、中瀬製錬所で技術開発部が発足した。研究開発部隊の技術課、設備設計を担う設備課、品質保証課を組み入れて独立した部門とした。各部門を有機的に連携させることや、技術開発部が情報のハブ機能となって市場調査やユーザーなどとのやり取りで得た情報を一元的に集約することで、新製品などの技術開発の精度とスピードを高める狙いだ。
日本精鉱は創業90周年にあたる25年度に始動した3カ年の中期経営戦略で、重点施策の一つに新製品開発・新規事業への進出を掲げた。新製品開発の主導的役割を担うのが、新設した技術開発部のミッションの一つだ。北薗智技術開発部長は「掲げた目標を見据えながらも、目の前の課題に確実に取り組み、スピード感を持って開発を進める姿勢を全員で大切にしたい」と意気込みを話す。
新製品開発の柱の一つに位置付ける金属硫化物は衝突エネルギーを利用する「メカノケミカル法」や高温・高圧下での合成法、液中で沈殿させる合成法などによる各種金属と硫黄の化合物。自動車ブレーキパッド向け摩擦調整材の原料となる硫化スズのほか、開発品として硫化銅、硫化ビスマス、ボーナイト(銅と鉄の複合硫化物)、硫化鉄、硫化コバルトなどを手掛ける。
金属硫化物は固体潤滑剤のほか、電池の活物質やセンサーなどの電子材料、太陽電池などのエネルギー関連材料といった用途で需要を見込む。市場調査や用途ごとのニーズ分析、潜在顧客との接点づくり、必要に応じた製品バリエーションの拡充などを全社一丸で進める。電池材料分野では大学との共同開発も進行中だ。技術開発部傘下の各部門の機能を束ねることで、試作品の開発と製造プロセスの設計、製品の安定性評価が同時並行的に行える利点を生かして、事業化活動を加速させる。
主要製品で樹脂難燃剤に使われる三酸化アンチモンの粉体を樹脂に練り込んだ樹脂マスターバッチや、三酸化アンチモンレスや三酸化アンチモンフリーの難燃剤も開発中で、25年度中に本格販売する計画だ。
三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤と組み合わせて高い難燃性が付与できるため、自動車や家電製品、産業機械の部品、住宅資材などに幅広く使われる。
樹脂マスターバッチとして供給することで、アンチモンのロス率の低下、樹脂への難燃剤の分散向上による難燃性向上が期待できる。加えて、発じんが抑えられ、特定化学物質や劇物の指定も解除される。さまざまなベース樹脂に対応する製品を開発しており、顧客の作業環境の改善や保管・ハンドリングの面での利便性向上につながる点を訴求して売り込む。
さらに足元では中国政府の輸出管理措置などにともなってアンチモン製品全般の価格が急上昇している。アンチモン相場の影響を受けにくく、コスト低減につながる三酸化アンチモンレスやフリーの樹脂用難燃剤も開発することで、顧客に多様な選択肢を提供する。
中期経営戦略で高付加価値製品の販売促進をアンチモン事業の重点施策の一つに掲げる中、中瀬製錬所では増産体制の整備に動く。
半導体原料の高純度金属アンチモン「METAL-H」、触媒などに使われる高純度三酸化アンチモン「PATOX-SUF」、ナノ粒子の超微粒三酸化アンチモン「PATOX-U」について、製造炉や精製設備を更新するなどして生産能力を引き上げる。併せて、生産工程の自動制御や管理の省人化に向けてセンサーなどのデジタル機器も導入し、26年度中の完成を見込む。
中期経営戦略では3カ年平均の連結営業利益を30億円と目標を掲げる。三酸化アンチモンなど既存製品の販売拡大に加え、高付加価値製品や新製品の貢献が収益力強化に必要となる。独自の技術で高付加価値製品の拡充を進め、競争力強化を目指す。
<北薗智技術開発部長 情報集約、精度・速度高める>
日本精鉱は中期経営戦略の始動に合わせて技術開発部を新設した。新製品開発や生産現場改革の方針などを北薗智技術開発部長に聞く。
◇ ◇ ◇
▼…新組織発足の狙いは。
「研究開発、設備設計、品質設計の各機能を有機的に連携させ、技術開発部を軸に情報収集力を高めることで、技術開発の精度とスピードを高める狙いだ。新製品の事業化に必要な設備投資や評価機器の導入は柔軟に行い、技術者の増強も計画的に実施する方針だ」
▼…新製品開発の方向性は。
「新製品開発の柱の一つとして金属硫化物の製品化に取り組み、樹脂用難燃剤でも作業の環境・効率向上に寄与する樹脂マスターバッチやコスト低減のための三酸化アンチモンレスおよびフリー製品を開発中だ。グループ会社の日本アトマイズ加工とは互いの持つリソースを活用した開発テーマの探索を進めている」
▼…中瀬製錬所の生産高度化に向けて、どのようなことに取り組みますか。
「品質や機能を安定的に確保しつつ、合理的な価格で継続的に製品を供給するには、適切な製品設計、効率的な製造プロセスの構築に加え、製造工程でのモニタリングや制御、中間品や最終製品の性能評価、製品検査といった工程全体を通じた精度の向上が重要になる。このためIoT機器やデータ分析のダッシュボードといったデジタル技術を活用し、製造・評価の高度化・効率化を図る」
「アンチモン製品の原材料の多様化、再資源化技術の強化、製造工程のエネルギー使用量や二酸化炭素(CO2)排出量の低減に向けた施策も引き続き検討・実施していく」
(聞き手=小林徹也)