• 増強を検討するノースカロライナ州の工場
      増強を検討するノースカロライナ州の工場
     JSRは、バイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)事業で、米国拠点の増強に乗り出す。資金調達難を背景に停滞していた創薬ベンチャーの新薬開発が今後成長軌道へと持ち直し、製造需要が増加すると予想される。拠点を構えるノースカロライナ州で工場用地を確保し、次期増強投資の詳細を詰めている。既存工場の生産性向上とともに中長期の成長につなげる設備投資もあわせて計画し、業容拡大を図る。

     JSRは、ライフサイエンスを重点領域に掲げ、中核事業として抗体医薬のバイオCDMOをグローバルで展開する。世界3カ所に研究開発・製造拠点を持ち、米コロラド州やノースカロライナ州、スイスの工場を中心に受託している。コロラドの工場はすでにフル稼働の状況で、ノースカロライナの工場は今後1年半ほどでフル操業に近い水準に達する予定。

     同社は中期経営計画で、ライフサイエンス事業の売上高1000億円、売上高営業利益率(ROS)20%を目標に掲げる。23年度売上高は1380億円と上回る予想だが、コア営業利益ベースのROSは3・2%と未達。このため生産性改善策の一環として、今年度初めには米コロラド州の工場で、100日以上の稼働停止をともなう大規模修繕を実行した。このほか、デジタルトランスフォーメーション(DX)化や医薬品の材料を工場近接地に置くなど、利益を高める施策に取り組んできた。

    • ローリー上席執行役員
      ローリー上席執行役員
     こうした生産性向上とともに、次期増強投資も計画する。抗体医薬を中心に新薬開発の需要は根強く、今後、成長軌道へと戻ることが予想され、製薬会社や創薬ベンチャーの研究開発の進展とともに必要となる製造量も増加する。JSRライフサイエンス事業部長のティム・ローリー上席執行役員は「ノースカロライナ州ではすでに取得している土地があり、そこで拡大する計画が検討段階にある」と話し、投資内容の詰めの作業に入った。

     JSRでは、二重特異性抗体など次世代品の製造受託に力を入れており、抗体薬物複合体(ADC)などの需要も高まる。抗体医薬の種類が増えるなか、検討を進めている増強投資ではこうした多様化するニーズに対応できるよう、2000リットル規模のシングルユース培養設備を活用し、最も効率的に製造できる生産体制を追求する考え。

     遺伝子治療薬やADCなど新規モダリティに事業領域を広げることも検討する。ローリー上席執行役員は遺伝子治療薬について「投資がやや過熱している」と慎重姿勢の一方で、ADCには「大変興味を持っている」と話す。
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