• カナダに建設するセパレーター工場の完成予想図
      カナダに建設するセパレーター工場の完成予想図
     旭化成はリチウムイオン2次電池用(LiB)湿式絶縁膜(セパレーター)で、北米の電気自動車(EV)市場をメインターゲットに据えた事業展開に拍車をかける。カナダでの車載LiB用セパレーター生産について本田技研工業(ホンダ)と基本合意書を締結。25日に会見を開き、同オンタリオ州に年産約7億平方メートルのセパレーター工場を建設すると発表した。EV産業育成を目的にした米国インフレ抑制法(IRA)を追い風に、北米市場に進出する電池メーカーや自動車メーカーが相次いでいる。同業大手に先駆けて安定生産を実現することで、将来的に北米市場でシェア30%の獲得を狙う。2031年度には同事業で22年度比4倍超の1600億円の売り上げを計画する。

     北米のEV需要獲得に向け、LiB用湿式セパレーター「ハイポア」の製膜・塗工一貫製造拠点をカナダ・オンタリオ州に新設する。概算投資額は1800億円。商業運転は27年を予定する。北米での大規模拠点開設を明らかにしたのは、大手セパレーターメーカーでは初となる。

     今回の建設では、24年10月発足予定の旭化成バッテリーセパレータが日本政策投資銀行に対して優先株を発行し、資金提供を受けることで合意した。資金は北米セパレータ事業統括会社を通じてカナダセパレータ事業会社と工場建設・製造を担当するカナダ製造会社に供給する。ホンダは同製造会社への出資に基本合意し、合弁会社設立の検討を進める。

    • 会見する工藤社長
      会見する工藤社長
     旭化成のハイポアは00年代から民生用途で販売数量が拡大、同用途で圧倒的なシェアを獲得した。しかし、この強固な民生用途の事業基盤があだとなり、「車載用途の拡大にやや遅れてしまった」(工藤幸四郎社長)。この車載需要は今後、EVやLiB材料の域内生産を促進するIRAを追い風に、急速な拡大が予想されている。そこで、「先んじて大型投資を行い、顧客を引き込む」(同)ことで、今後の北米EV市場で存在感を発揮する考えを示す。

     工藤社長が「従来の当社事業展開とは一線を画す」という北米展開は、高品質を担保しながら、低コスト生産の徹底や生産規模の拡大といった手立てを実行するもの。例えば、カナダの新拠点では、基材膜と塗工膜の生産速度を業界標準比で2倍に高めた技術を導入する予定で、生産性の向上につなげる。

     また、旭化成では北米でのセパレーター需要について、23年の10億平方メートルから30年には53億平方メートルに拡大すると予測する。30%のシェア獲得に向けては今後、北米市場で15億~20億平方メートルの生産規模が必要となることから、第2期、第3期の追加投資も検討するという。第2期以降の工場はホンダと同様に合弁会社の設立のほか、長期契約やフリーでの供給などを含め、さまざまなビジネス形態を模索するとしている。

     カナダの新工場は、5月から整地を始める予定。ホンダとの合弁比率などは今秋での公表を計画する。
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