• 2024年4月8日

     世界的なクリーンエネルギー需要の高まりを受け、太陽光発電システムの導入拡大が続いている。2022年の導入量は前年比37.1%増の240ギガワットを記録。現在、普及している太陽電池のうち9割以上を結晶シリコン系が占めるが、変換効率の理論限界値である28%に近づきつつある。そこで近年注目されているのが、日本発の技術であるペロブスカイト太陽電池(PSC)だ。

    柔軟・安価・効率の3拍子

     PSCは色素増感太陽電池の一種で、09年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が開発した。色素増感太陽電池の色素をペロブスカイト結晶に置き換えたことで、薄くて折り曲げに強い構造を実現。シリコン太陽電池の設置が難しい場所でも発電できる。

     また、ヨウ素や鉛といった素材を用いて、コーティングや印刷技術で容易に作製できるため、製造コストがシリコン太陽電池の5分の1から3分の1程度に下がるとされている。製膜方法としては、大きく分けて溶媒を用いるウェットプロセスと真空蒸着のようなドライプロセスがある。

     代表的なペロブスカイト結晶のヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)は可視光の波長の吸収に適している。さらに電子と正孔の分離にも優れ、電荷を安定的に輸送可能な構造を持つ。変換効率は開発当初3%程度だったが、現在では25%を超えるとする論文もある。また、低照度下での利用も有望視されている。通常、屋内で用いられるアモルファスシリコン太陽電池の2倍以上の変換効率を達成した成果もある。

    多接合で能力の限界に挑む

     世界のシリコン太陽電池メーカーはさらなる変換効率の向上を目指し、PSCと組み合わせたタンデム(多接合)型と呼ばれる次世代電池の開発に力を入れている。PSCはペロブスカイト材料の組み合わせによって、吸収できる光の波長を変えることができる。例えばPSCが短波長、シリコン太陽電池が長波長を利用するような設計にすることで、30%を超える変換効率を実現する。このタンデム型の理論限界値は43%程度とされている。

    鉛レス化や耐久性など課題

     いいこと尽くめに見えるPSCだが、普及には課題もある。変換効率が高いペロブスカイト結晶には有害物質である鉛が用いられており、厳密に管理された環境下でしか利用が認められていない。スズを原料にする方法もあるが、均一な膜の塗布が難しいことなどから性能面では鉛に大きく劣る。耐久性にも課題がある。PSCは外気や紫外線に弱く、シリコン系の寿命が20年程度なのに対し、5~10年程度に留まる。

     こうした課題解決に向け、大学など研究機関ではスズ系の高品質な成膜プロセス、封止や表面パッシベーションによる劣化防止、電荷分離効率の改善など研究を進めている。

    普及へ本気度試される日本

     国際エネルギー機関(IEA)によると、平地面積当たりの太陽光発電の容量は日本がトップだが、導入量は毎年減少している。これは発電に適した土地が減少しているためであり、さらなる太陽光発電の拡大にはPSCの実用化が望まれる。

     経済産業省はPSCを次世代型太陽電池の本命と位置づけており、24年度中に改定するエネルギー基本計画の検討にあわせ、導入目標を策定する方向だ。導入目標は、政府のGX実現に向けた「分野別投資戦略」に明記した「20年代年央100Mw/年規模、30年を待たずにギガワット級の量産体制構築」を前提に検討する。

     総額2兆7500億円のグリーンイノベーション(GI)基金事業は、昨年150億円を積み増し648億円とした。同事業は30年までに1kw時14円以下の発電コスト達成を技術目標としている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は目標達成に向け、予算200億円で積水化学、東芝、アイシンなどの研究開発を支援している。

     世界ではポーランド新興のサウレテクノロジーが2021年にPSCの商業生産を開始。中国でも量産体制が整い、特許出願で猛追している。画期的な材料や製法を開発し技術的優位性を発揮できるか。いま、日本の本気度が問われている。
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