• (2023年11月13日11:24更新)

     有機フッ素化合物「PFAS」の人や環境への影響について世界的に関心が高まっている。欧州では今年1月、ドイツなど5カ国がEU圏内での全廃を求め、制限案を欧州化学品庁(ECHA)に提出した。PFASとはどのような物質なのか、今回の制限案をめぐる動きについてまとめた。

    1万種類以上、構造の強さに特徴

     PFASとはPer- and polyfluoroalkyl substances(ペルフルオロおよびポリフルオロアルキル化合物)の略称で、経済協力開発機構(OECD)は「完全にフッ素化されたメチルまたはメチレン炭素原子を少なくとも一つ含むフッ素化合物」と定義している(※)。その数は1万種類以上ともいわれ、いずれも骨格の炭素とフッ素が強力に結びついている(C-F結合)。この結合のため、撥水性と撥油性を同時に示すなどさまざまな優れた性質を持つ。

    ※欧州5カ国が提出した制限案の定義はOECDと同一。米国EPAはほぼすべての有機フッ素化学品をPFASとしている。

    日常と産業、幅広い用途を支える

     PFASはその多様で優れた性質から医療、電子、半導体、自動車、建築、繊維などの産業分野から消火剤、フライパンのコーティング、撥水スプレー、殺虫剤など日用品まで幅広い用途に使われている。とくに半導体製造などの先端分野では不可欠な材料となっている。

    広がる環境・人体への懸念と制限

     デュポンが1938年にポリテトラフルオロエチレン(PTFE、商品名:テフロン)を開発。その加工特性を高めるため、米3Mが開発したペルフルオロオクタン酸(PFOA)が使用された。さらに3Mは53年にペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を活用した撥水・撥油剤を発売。その後、PFOAとPFOSは幅広い分野で使用されるようになったが、2000年代に発がん性や環境への残留性が明らかになると、世界的に制限に向けた動きが活発になった。

     残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)に基づいて、PFOAは09年、PFOSは19年に廃絶の対象となり、日本も化学物質審査規制法(化審法)でこれらの製造・輸入などを原則禁止している。その他のPFASでは、22年に開かれたPOPs第10回締約国会議でペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)の廃絶が決定、長鎖ペルフルオロカルボン酸(PFCA)も残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)でリスク管理に係る評価を検討する段階に進めることが決まっている。

    予防原則を適用する欧州制限案

     デンマーク、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ノルウェーの5カ国は今年1月にPFAS全廃を掲げる制限案を提出した。同案はPFOAのような制限されたPFASに代わって、制限されていない別の有害なPFASが使用されるのを避けるため、一つのグループとして一律に制限する。また、難分解性を根拠に環境や人への影響が懸念されるため、科学的証明なしに政策決定できる予防原則を適用するとしている。

     制限案は25年のEU委員会の採択とその後の議会および理事会の承認を経て、早ければ26年後半にも採択、そこから18カ月の移行期間を経て施行されることになる。一部の用途では代替物質が開発段階にある場合は5年、特定されていない場合は12年の猶予期間を設けている。

    産業の発展に影、注目される動向

     案の通り制限が実施された場合、サプライチェーンや日常生活に甚大な影響が出るとして産業界では懸念が広がっている。日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)は、制限案には科学的根拠が十分でなく、許容できないリスクの存在を積極的に求めるREACH規則68条に違反していると指摘。欧州グリーンディールを妨げ、国際貿易を著しく阻害するとして意見書をECHAに提出した。

     ECHAでは9月25日までパブリックコメントを募集し、並行して専門家の審議が行われている。制限案が通過してそのまま多数のPFASが制限されるのか、代替品の猶予期間の見直しなど何らかの形で修正されるのか成り行きが注目される。

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