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  • 旭化成、グリーン水素製造システムで世界首位へ 食塩電解知見生かす
  • 2024年5月8日
    • 福島県浪江町で稼働中のアルカリ水電解装置
      福島県浪江町で稼働中のアルカリ水電解装置
     旭化成は、再生可能エネルギー由来の電力を使って「グリーン水素」を製造するアルカリ水電解システム事業に経営資源を厚く投じる。計画する2025年度中の事業化に向け、まずは食塩電解装置の事業基盤を活用して実績の積み上げを狙い、さらに川崎市にパイロットプラントを立ち上げて大型システムの開発を加速する。膜や部材の増強も推し進める。エンジニアリング会社などパートナー戦略も駆使して市場に入り込み、巨大な需要を取り込む。掲げる30年事業規模1000億円を通過点とし、水素製造システムでグローバルナンバー1を目指す。

     カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、化石燃料を用いず製造するグリーン水素のプロジェクトが世界的に計画される。そのなかで、水を水素と酸素ガスに分離し水素を生成する水電解槽の導入容量は22年の約1ギガワットから30年に85ギガワットに拡大が見込まれる。豪州、欧州や北米などで支援制度の整備も進展し、30年までに水電解槽は累計400ギガワット以上に達する可能性がある。数兆円規模の大きな潜在力を持つ市場で、旭化成は食塩電解装置で培ったノウハウと、先行して実証を進めている優位性を生かし、世界首位の座を狙う。

     旭化成は水素関連を次の成長をけん引する事業の一つに位置づけ、30年に水電解システムで1000億円規模の売り上げを掲げる。国内やアジアで実績をあげ、欧州や北米などに広げる構想で、目標達成に向け、すでに部材の増強に向けた体制整備や、エンジニアリング会社とのパートナー戦略の検討に乗り出している。

     開発しているのは、再生可能エネルギーを用いるアルカリ水電解システム。旭化成は食塩水を電気分解し、塩素や水素、カ性ソーダを作る食塩電解プラントで、イオン交換膜や電極、電解槽を約半世紀にわたり手がけ、メンテナンスを含めたアフターサービス体制もグローバルに整備している。水素製造用水電解システムの事業化と初期段階は、まず食塩電解事業の技術やノウハウ、アフターサービスなどの資源を生かし展開していく。

     福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」で10メガワットの装置を設置し、20年から実証実験に取り組んできた。「25年度の事業化に向け、技術や仕様はほぼ固まっている」(グリーンソリューションプロジェクト長の竹中克上席執行役員)。

     さらに川崎製造所(川崎市)に800キロワット(0・8メガワット)のモジュールが4つ並んだパイロットプラントを設けた。複数の電解槽を並列に並べて運用し、さまざまな環境下での最適運転の検証、部材の改良などを進める。また、浪江の実証データと合わせ、大規模システムの設計につなげる計画。

     昨年11月に日揮ホールディングス、マレーシア国営石油会社ペトロナス傘下のジェンタリ・ハイドロジェンと、マレーシアで60メガワットのプラント建設に向け基本設計を始める覚書を結んだ。27年の実証運転開始を見込む。「マレーシアのプロジェクトが立ち上がり、浪江、川崎との組み合わせで事業プラットフォームが出来上がる」。

     ただ、成長市場をターゲットに、水素製造水電解装置は独シーメンスや独ティッセンクルップグループなど競合が積極展開する。固体高分子(PEM)型水電解装置や固体酸化物形電解用セル(SOEC)と呼ばれるタイプなど異なる技術の開発も活発化している。旭化成は食塩電解装置の事業基盤と10メガワット級の実稼働などでの実績を発揮し、攻勢をかける。

     旭化成は4月、カナダでリチウムイオン2次電池(LiB)主要部材のセパレーター(絶縁膜)の新工場建設を決めた。概算の総投資額は約1800億円だが、ホンダと組み、合弁会社を設立して立ち上げることなどで投資リスクを抑える。電気自動車(EV)を中心に拡大する車載電池の北米市場で、先行して大型投資を実行し需要を捉えシェアを獲得する考え。

     水電解システム事業でもパートナー戦略を駆使しながら積極的な展開で成長のための土台を構築する方針。将来、巨大市場でプレゼンスを高め、収益の柱となる事業の確立を目指す。
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