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  • SCG、低炭素社会実現へ タイ首相に提言
  • 2023年10月26日
    • SCGの提言を受けスピーチするセター首相
      SCGの提言を受けスピーチするセター首相
     【バンコク=松井遥心、石田亮】タイ素材大手サイアムセメントグループ(SCG)は9月に就任したセター首相に対し、タイの低炭素社会実現に向けた4つの提言を提出した。同社がセメント工場を置く中部サラブリ県を同国初の低炭素モデル都市とすることなど、いずれもグループ事業に絡めた内容。提言の受け渡しを兼ねて同社が5日に開いたESG(環境・社会・企業統治)関連イベントに招かれたセター首相は「誰一人取り残さず低炭素社会を実現することは非常に難しいことで、そのため多くの連携が必要。政府はそれにしっかり関わっていく」と強調した。

     SCG主催の「ESGシンポジウム」は今回で11回目。毎回、事前に有識者らの協力を得て政府へ向けた提言を取りまとめている。今年は政府、企業、地域コミュニティーから延べ500人以上が議論に参加した。開会のあいさつでルンロート社長兼CEOは国連の言葉を借り「われわれは地球沸騰の時代に入っている」と警鐘を鳴らした。

     首相に対する提言の1つ目には、低炭素モデル都市「サラブリ・サンドボックス」の構築を挙げた。サラブリはセメント原料となる泥灰土の産地として100年以上の歴史があり、同社にとっては1948年に第2のセメント工場を築いた生産拠点でもある。低炭素社会への移行で浮上する課題や成功事例を取得・分析するためのケーススタディーとする狙いがある。

     同社によると、同県は来年から県内すべての建設事業で低炭素セメントを使用することを義務付けている。このほかには、水田での水使用量削減やエネルギー作物となるイネ科のネピアグラスの栽培、農業廃棄物の代替エネルギー利用などの取り組み事例を紹介した。

     2つ目として、循環型経済の構築を国家計画とすることを盛り込んだ。明確な政策、法律、基準の確立や全国統一のごみ分別回収システムの導入などを提唱。再生材や生分解性素材の普及に向けた使用量の法的義務の設定、政府によるグリーン調達の実施なども訴えた。

     3つ目は再生、持続可能なエネルギーへの転換。再エネ由来電力の取引自由化とともに、水素などの新エネルギー関連の開発やエネルギー消費が多い運輸部門での輸送効率化の重要性も伝えた。

     関連してこの日、トヨタ自動車、いすゞ自動車、日野自動車、スズキ、ダイハツ工業が設立したコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)の中嶋裕樹社長が講演。連携する各社を合わせると大型トラックから配達用小型車まで揃い、CASE(つながる・自動運転・共有・電動化)技術も手がけていることを挙げ、「われわれは今できることをすべて進めようという精神で、商用車分野でCNに取り組んでいる」と話した。

     同社とトヨタは今年4月にSCGと大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループとの間で相次いでCN実現に向けた協業に関する基本合意書を締結。今月にはCJPTのタイ現地法人を立ち上げ、モバイル、データ、エネルギーの3領域におけるソリューションを提供していく方針を示している。日本で一定の成果を収めている燃料電池車(FCEV)の物流分野への実装や養鶏場排出のバイオガスを利用した水素製造などに取り組んでいる。

     4つ目の提言で、低炭素社会へ移行するうえで誰一人取り残さないことを念押しした。中小企業、労働者、農民、地域コミュニティーなどを挙げ、移行の影響を受けるグループの特定と支援を求めた。
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