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  • 中国LiB大手が米に材料工場 原産地規制回避へ
  • 2023年11月1日
  •  【上海=中村幸岳】中国のLiB(リチウムイオン2次電池)大手・国軒高科(グオシュエン、合肥市)は10月26日、米ミネソタ州で車載LiB用正・負極材の工場を新設すると発表した。米国ではIRAに基づき2029年にかけて、EV購入時の税控除条件となる電池部品などの現地生産比率が段階的に引き上げられる。国軒高科もIRAをにらみ現地生産体制を整える。投資は第三者との合弁を想定し、31年末までに完成させる予定。

     国軒高科は9月、24年稼働を目指しイリノイ州で車載電池の生産に乗り出すと発表していた。ミネソタ工場はグループの米国第2生産拠点となる。

     イリノイ工場が単独投資であるのに対し、ミネソタ工場は「戦略パートナーとの合弁投資」を想定。同社に約25%を出資する筆頭株主・独フォルクスワーゲンとの合弁などが予想される。

     投資額は約24億ドル(3600億円)で、すでに州政府との間で工場用地の購入基本契約を結んだ。

     <「懸念企業」焦点に>

     米財務省によると、米国のEV購入者はIRAに基づき1台当たり7500ドルの税控除を受けられるが、その条件としてEVや部品生産の現地生産比率などが設定されている。

     例えば24年(会計年度)には、価値ベースで電池部品の60%を北米で組み立てることが要求され、またEVに使われる重要鉱物(※1)の50%は米国もしくは米国が自由貿易協定(FTA)を締結している国で採取、加工、再生されなければならない(※2)。

     この現地生産比率は段階的に引き上げられ、29年以降は電池部品で100%、重要鉱物で80%となる。

     さらに電池部品は24年以降、重要鉱物は25年以降、それぞれ「懸念国の事業体(FEOC=Foreign Entity of Concern)」が製造や開発に関与している場合、税控除を得られなくなる。

     米商務省の9月発表によると、半導体などの投資を支援するCHIPS・科学法においてFEOCは「特定国の政府が直接または間接的に議決権を25%以上保有する企業」「特定国の法律に基づいて組織され、または特定国に主要事業所を持つ企業」など定義される。「特定国」には中国やロシア、北朝鮮、イランが含まれる。

     IRAにおけるFEOCの詳細な定義も近く発表される見通しだが、仮にCHIPS・科学法と同じルールが援用されるとすれば、中国大手企業によるEV・車載電池関連の投資は困難になる。

     これに関連し今年9月、米フォードはミシガン州で26年に稼働させる計画だった車載電池工場の建設を一時中止すると発表した。完成すれば米国初のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池工場となるが、車載電池世界最大手の中国・寧徳時代(CATL)から技術支援を受けることなどが問題視された。

     FEOCの定義は、日本の電池・同材料メーカーの投資戦略にも影響を及ぼすため注目が集まる。

     <合弁投資で抵触回避>

     正負極材料や電解液、これらに使う資源は中国が6割以上のシェアを握るケースが珍しくない。そのため中国勢を完全に排除し、米国でEV・電池チェーンを拡充することもまた難しいとみられる。

     国軒高科は民間上場企業だが、ミシガン工場新設に当たって第三者との合弁を想定するのは、FEOC規定への抵触リスクを回避する狙いもがありそうだ。

     中国政府は10月20日、LiB負極材にも使われる黒鉛の輸出制限措置を12月に導入すると発表した。中国は黒鉛生産シェア約7割を握り、負極材料向けの精製品は同9割に達するとされる。

     輸出制限はFEOC規定などへの対抗措置とみられる。米中間で半導体に続き、EVおよび車載電池のバリューチェーンを巡るさや当ても本格化している。

    ※1…黒鉛、コバルト、銅、ニッケル、リチウムなど。

    ※2…部品、重要鉱物いずれか1つの現地生産条件を満たすEVの税控除額は半額3750ドルになる。
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