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  • 日産化学、排水処理向け微生物製剤で新知見
  • 2023年11月1日
    • 固形物が液状化すると他の微生物も協働して分解が加速する
      固形物が液状化すると他の微生物も協働して分解が加速する
     日産化学は、食品工場に提案している排水処理向け微生物製剤に新たな効果を確認した。排水中の油脂分解だけでなく、油脂や有機物が固形化した「オイルボール」や微生物の死骸などの不溶物質も分解する作用を示すことが分かった。後工程の活性汚泥槽の負担減、廃棄物削減効果を新しい角度から裏付けるデータであり、食品メーカーにとどまらず、油脂を含む排水処理に課題を抱える化学や化粧品メーカーなどにも提案先を広げていく。

     一般に食品工場では、洗浄工程から出る排水中に含まれる油脂を凝集剤を用いて分離、回収して廃棄する加圧浮上分離方式を採用している。この場合、油の廃棄コストがかかり、悪臭も発生する。このため油脂を分解する微生物製剤が注目されているが、分解力が弱い課題があった。

     これに対し、細菌のパークホルデリアアルポリスと酵母のヤロウィアリポリティカを組み合わせた日産化学の微生物製剤「ビーナスオイルクリーン」は、24時間以内に油を水と二酸化炭素(CO2)に分解する。油脂を処理する調整槽において有機物も分解。微生物が有機物の分解に要する酸素量を示す生物化学的酸素要求量(BOD)も大幅に低減するため、後工程の活性汚泥処理において残存酸素を高める曝気などの負荷低減や、有機物を分解し尽くした後の微生物の屍骸などからなる汚泥の廃棄量を削減できる。

     これまでは加圧浮上分離方式に比べて汚泥廃棄量を30%削減できると訴求していた。だが、採用後1年経過したあるユーザーから、70%も削減できたとの報告を受けた。このことから、一般的な油脂用微生物製剤では分解できないオイルボールや微生物の死骸など、油脂以外の不溶物質も分解していると推測した。

     模擬水とオイルボール中の固形物を用いた実験を実施し、ビーナスオイルクリーンを添加すると固形物が分解したのに対し、無添加では分解できず残存することを確認した。固形物が液状化すると他の微生物も協働するため、分解が促進されるという。さらに「油を含む模擬水で培養を継続すると菌密度が下がり透明になったことから、ビーナスオイルクリーンは自らの死菌をも分解している可能性がある」(同社)としている。

     種菌を試薬で急速培養させて投入するだけの簡便性も、人手不足が深刻化している排水処理の現場から歓迎され、実績は増加している。これまでの主な提案先は食品メーカーで、あるユーザーでは植物油脂に加えて動物油脂の排水処理ラインでの採用検討も始まっているという。

     天然油脂から各種誘導品を製造する化学メーカーや、天然由来原料を採用している化粧品メーカーにも提案先を広げる。これらの業界で進むSDGs(持続可能な開発目標)対応とビーナスオイルクリーンの廃棄物削減効果は合致する。

     また、カーボンニュートラルの観点から化学業界ではバイオマス原料の導入、天然原料を活用した製品開発が活発化。化粧品業界でも影響力の強い世界最大手の仏ロレアルが化粧品処方の95%以上をバイオ・天然由来原料にする目標を打ち出している。このため、油脂の排水処理対策ニーズも従来以上に高まっていくとみて、提案を強化していく。
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