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  • TfS、日本で活動本格化 持続可能なSC構築へ
  • 2023年12月12日
     持続可能なサプライチェーン(SC)の実現を目指す化学業界のイニシアチブであるTogether for Sustainability(TfS)が日本での活動を本格化する。化学産業に対し市場から「責任ある調達」や温室効果ガス(GHG)のスコープ3(SCに関する排出)削減要求が強まるなか、日本支部を立ち上げ連携の輪を広げたい考え。「欧州の化学クラブ」の印象も強かったが、昨今はアジア勢も相次ぎ名を連ねる。支部の幹事に就任した三井物産の村越敦ベーシックマテリアルズ本部戦略企画室長補佐は「グローバルスタンダードを享受し、各種規制のルールメイクにも携われる利点は大きい」と日系企業へ参加を呼びかける。

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     グローバルSCの拡大にともない、人権や労働、環境問題など企業活動が社会や環境に及ぼす影響は益々大きくなっている。TfSは化学産業の調達面にフォーカスした非営利組織で、2011年、BASFやバイエル、エボニックなど欧州の化学企業6社で発足し、SCのサステナビリティの実践を評価、監査し、改善することを目的に設立された。現在50社に膨らんだ加盟企業の購買額の総計は5000億ユーロ(約80兆円)に上る。

     活動の柱は大きく、サプライヤーのサステナビリティパフォーマンスの評価・監査と、GHGの排出管理の2点だ。TfSはSCのESG評価を手がける仏エコバディスとタイアップし、加盟企業はそのプログラムを用いて自社サプライヤーを評価する。評価・監査ずみのサプライヤー情報を組織内でプールすることで、化学産業全体のサステナビリティ向上を図る。

     他方、世界のGHG排出量の7%が化学産業であり、その77%がスコープ3に起因するとされるなか、昨年9月には化学業界で初めてカーボンフットプリント(CFP)算定のためのガイドラインを策定。排出量の把握、追跡、削減に必要な製品レベルの情報の可視化にも努めている。

     日本では18年にBASFやエボニック、クラリアントの日本法人を中心に啓蒙活動を開始したが、コロナ禍で活動が制約され、認知度は上手く高まらなかった。潮目が変わったのは昨今、責任ある調達やGHG削減の必要性が叫ばれ始めたからであり、22年4月に日本企業第1号として三井物産が加盟したことを好機と捉え、日本支部を発足。23年春、三井物産とBASFジャパンを共同代表幹事に据えるなど体制を整備し活動を本格化した。

     国内活動は主に(1)エコバディスを用いたサプライヤー評価(2)業界団体向けの講演や日本語資料作成などメンバーを増やすための広報活動(3)スコープ3の可視化-の3点で、日化協など各業界団体とのコミュニケーションも密にしていく。

     TfSはここ数年、アゼリスなどのディストリビューターや中国の万華化学、今年に入ってもインドラマやSABICが加盟するなど参加企業の幅を急速に広げている。地域支部も15年の中国支部開設以降、ブラジルやシンガポール、インド、米国へと広がってきた。

     日系企業のなかには、環境、社会、企業統治(ESG)視点での独自のサプライヤー評価軸を持つ企業も多く、TfSへの参加に疑問を持つ声があるのも事実だ。これに対し、共同幹事を務めるBASFジャパンの石田博基社長は「責任あるサプライヤー選びを図るうえでは各社が独自基準で活動するのでなく、グループでナレッジをシェアし全体を底上げしていく必要がある」と説く。

     TfSにはメンバー要件があり、加盟するにはエコバディスで一定以上の点数を取得する必要がある。最高調達責任者(CPO)の活動へのコミットをはじめ、社内外の活動のハブになるコーディネーターを配置するなど一定の経営リソースの配分も求められる。村越氏は「参加のハードルは確かに低くないが、今後重要性を増す国境炭素税(CBAM)などの議論にも積極的に関われるようになる。活動自体もまだ多様化されておらず、海洋プラやリサイクルなどの各種規制や運用では日本企業が先頭に立って市場をリードしていけるのではないか」と話す。
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