• 医薬・医療
  • 医薬品供給網の強靱化進む 中外は紛争リスクに備え
  • 2024年2月8日
    • 中外製薬・浮間工場の抗体医薬製造設備
      中外製薬・浮間工場の抗体医薬製造設備
     製薬会社が紛争などさまざまなリスクに備え、バイオ医薬品の製造サプライチェーン(供給網)の一段強化に乗り出す。中外製薬は原料などの調達先(サプライヤー)や医薬品製造受託会社(CMO)を評価する条件に紛争リスクを追加し、こうした協力先の動向調査を今年から本格化する。JCRファーマは災害リスクの小さい欧州のルクセンブルクに医薬品供給のハブ拠点を作る。製薬各社は相次ぐ事業リスクに耐性を高めて難病薬を途切れなく世界に供給し成長につなげる。

     日本の製薬会社は東日本大震災や新型コロナウイルス流行などの教訓をテコに、バイオ医薬品の強固な世界供給網を整備し、海外成長を図ってきた。医薬品中間体などの原料調達先や原薬の製造サイトを複数にし、不測の事態でも患者に医薬品が届く供給網を構築している。人権や気候変動対応といった評価軸でもサプライヤーを評価し、事業活動の持続性という観点を含めてサプライチェーンを確立してきた。

     22年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、新たに「国際紛争」への警戒も強まる。イスラエルによるガザ侵攻や台湾有事など紛争リスクが多発し、製薬各社もこれに備える取り組みを本格化する。

     中外製薬は品質や製造技術などの要件を満たすサプライヤーやCMOの選択肢が複数ある場合、採用の判断基準は次にコストを優先する傾向だった。一方で23年から、これまで必ずしも織り込んでこなかった紛争の地政学リスクを基準に追加し、サプライヤーの評価を始めた。

     具体的には、地政学リスクをともなう国・地域の1次サプライヤーは第一選択にしない方針だ。2次以降のサプライヤーの動向調査にも乗り出す。血友病などの抗体医薬を手がける同社は新薬を上市する際、日本の自社工場で先行してサプライチェーンを作り上げ、並行してCMOを活用した2つ目の供給網を構築する。こうしたCMOを選ぶ際の基準にも、紛争リスクを加える。

     自己免疫疾患向けの抗体医薬を主力にする武田薬品工業は米中摩擦へのリスク感度を引き上げ、有事の際の調達網や医薬品供給のシミュレーションを行う。同社のバイオ医薬品の製造拠点は米国が中心で、先端医薬品の場合、中国由来の原料や製造に用いる設備や部素材はほとんどないが、供給網を遡れば中国に行き着く可能性がある。

     抗体薬物複合体(ADC)を世界展開する第一三共は、ADCを構成する抗体と抗がん剤、それらを結合するリンカーと呼ぶ化学品などのそれぞれで、自社とCMOの複数サイト化に取り組み、地域的にも日本と欧米の2極に分けて製造サプライチェーンを構築している。

     新たなリスクとして浮上するのが、エネルギー費の上昇や為替変動などによるコスト高で、CMOへの委託費が増える傾向にあることから、自社製造との比率を調整するといった生産最適化に取り組む。中外製薬も需要に応じてスケールメリットを追求するなど柔軟な生産体制を組めるよう連携するCMOを絞り込む検討をしている。

    • JCRファーマのルクセンブルク拠点
      JCRファーマのルクセンブルク拠点
     JCRファーマは研究開発中の希少疾患薬を世界に供給するハブ拠点を欧州のルクセンブルクに設置する計画で、3月にも既存施設の改装を始める。欧州や米国、南米など世界に供給する拠点として活用し、2年後をめどにまずは治験薬の供給体制を整える。

     ルクセンブルクに拠点を置くのは災害リスクが小さいほか、薬事規制に厳しい欧州基準に対応することで世界展開をスムーズに運ぶ狙いがある。バイオ医薬品の原薬は冷凍保存で3~5年の使用が可能で、現在は神戸の既存工場に1年分以上の在庫を持つ。ルクセンブルクと神戸のそれぞれに原薬を備蓄し、不測の事態でもどちらかの拠点から医薬品を供給できるようにする。
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