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  • 住友ファーマ、細胞医薬に強い企業へ転換 「ラツーダ」売却も検討
  • 2024年2月9日
    • 野村社長
      野村社長
     住友ファーマの野村博社長は化学工業日報の取材に応じ、低分子医薬品を中心に手がけてきた事業形態から、細胞治療薬に特色ある企業へと転換する考えを示した。2024年度の国内上市を目指すパーキンソン病向け人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来製品の「実用化が企業構造を変える機動力になる」と語った。足元の業績悪化からの脱却を急ぎ、24年度はコア営業利益の黒字回復を目指し、その手立てとして年間約20億ドルを売り上げていた抗精神病薬「ラツーダ」の北米権利売却も候補としていることを明かした。

     ラツーダが昨年北米での独占販売期間終了を迎え、ジェネリック医薬品(後発薬)の発売による大幅減収と、「ラツーダ・クリフ」からの再成長戦略の中核に据える前立腺がん薬など基幹3製品が想定通りに伸長しなかったことが響き、23年度最終損益は1410億円の赤字を見込む。

     今後数年間は投資計画を見直さざるを得ない状況だが、「再生・細胞医薬事業の強化の手は緩めず、投資優先順位は高く維持する」(野村社長)。他家iPS細胞由来製品の臨床開発を推進するほか、住友化学との共同出資で行う再生医療の開発・製造受託(CDMO)事業の増強などは継続する。

     野村社長は、パーキンソン病向けiPS細胞由来製品の国内での条件及び期限付承認の取得が「24年度の最大の目標」になると意気込む。米国での医師主導治験と企業治験を並行して進め、32年度までの米国上市も目指す。パーキンソン病薬の実用化をバネに「細胞を用いた再生医療に技術力のある企業という位置づけを狙う」考えで、後続する網膜疾患などのパイプラインにも力を注ぐ。

     24年度は基幹3製品のマーケティング強化、研究開発費の大幅削減、特許切れ製品の売却などの合わせ技で「最低限でも(コア営業利益で)黒字化」(同)する。後発薬のある製品に期待はかけられないとして、北米でのラツーダ売却も視野に入れる。ブランド薬は後発薬が上市されていても一定の市場価値が見込めるとにらみ、複数製品を候補に売却を検討する。22年には慢性閉塞性肺疾患薬「ブロバナ」、喘息薬「ゾペネックス」を印社に7500万ドルで売却した実績がある。現時点では日本で扱う長期収載品などは候補としていない。

     業績改善に向け、今後数年間は研究開発費の大幅削減を断行する。再生・細胞医薬事業と、26~27年度の日米承認取得を狙う2つの抗がん剤候補、大塚製薬と共同開発中の新規抗精神病薬「ウロタロント」は開発を引き続き進めるが、その他の早期段階にある臨床試験は一時的に保留する。当初計画からは遅れながらも基幹3製品の売り上げを伸ばすことで、27年度までの中期経営計画期間内には新しいパイプラインへの資源配分の再開を目指し、次の収益源を育成する。(坪倉由佳)
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