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  • 米、バイオ薬でも中国排除 関連法成立可能性高まる
  • 2024年3月21日
    • 米国のバイオセキュア法案は中国のゲノム解析大手やCDMO大手の排除を狙う
      米国のバイオセキュア法案は中国のゲノム解析大手やCDMO大手の排除を狙う
     米国による脱・中国の動きが最先端半導体に続いてバイオ医薬品にも広がる様相にある。国家安全保障上の懸念から、ゲノム解析や開発・製造受託機関(CDMO)などの中国企業4社を名指しし政府調達案件から排除する法案「バイオセキュア法(BIOSECURE Act)」が今月6日に米議会上院の専門委員会を通過、向こう1年ほどで法制化される公算が大きい。バイオ医薬分野では近年、中国の存在感が急速に高まっているだけに、創薬研究の停滞や医薬品サプライチェーンの混乱など幅広い影響が予想される。

     バイオセキュア法は対中強硬派で知られる共和党のマイク・ギャラガー下院議員を中心に草案され、1月25日に米国議会に提出された。遺伝子データが中国に盗まれ軍事利用される恐れがあるとし、第1段階の措置として米連邦政府調達案件から特定の中国企業を排除し、第2段階としてこれらの中国企業の製品・サービスなどを利用する一般企業も政府調達案件から締め出すという立て付けになっている。

     現時点でリストに載せた中国企業はゲノム解析大手BGI、そのグループ会社MGIとコンプリート・ゲノミクス、CDMO世界大手ウーシー・アップテックで、子会社など関連会社も対象にする。今後、企業を追加する可能性もある。

     6日に開かれた上院の専門委員会の採決では賛成が11、反対が1と超党派による支持を得た。民主・共和両党とも中国政策では歩み寄りができるため、大統領選の結果に関わらず、法律が成立する可能性が高い。2024年度予算の決定を待って本格的な議論が始まる見通しで、議会を通過した後はパブリックコメントなどを経て25年頃の成立が想定される。

     BGI、ウーシーとも世界的な大手に上りつめており、米国の製薬大手やスタートアップをはじめライフサイエンス分野の多くの企業が取引を行っている。対象の中国企業が政府調達案件に直接関わっているのは一部とみられ、政府案件に限れば産業活動への影響はそれほど大きくないとみられる。

     一方で中国企業と関わりを持つことで、信用度や企業価値、評判が落ちるレピュテーションリスクを避ける動きが広がり、産業活動が停滞する可能性がある。共同研究に中国企業が関与していれば開発が中断したり、遺伝子解析装置など生命研究に欠かせない先端機器が使いにくくなったり、創薬研究が滞る恐れがある。

     ウーシーは、CDMO世界上位3社のうちの1社で、欧米製薬大手から抗体医薬品などバイオ医薬品の量産を中国で請け負うが、ある証券アナリストは「今後、米国にサプライチェーンが移る可能性がある」と指摘する。米国に生産拠点を置く競合のCDMO企業にとっては漁夫の利を得る機会になるとの見方がある。

     ただし、中国企業との取引を止めれば、中国政府から目をつけられ、世界第2位の医薬品市場を抱える中国での成長機会を逃しかねない。欧米製薬大手の多くは中国を重点市場に位置付けており、ジレンマを抱えることになる。

     日本貿易振興機構(ジェトロ)調査部米州課の磯部真一課長代理は「米国がスマートフォンなどを手がけるファーウェイに行ってきた規制措置が先行事例になる」と話す。当初は政府調達案件から排除する内容だったが、米国発のあらゆる技術をファーウェイが使えなくする輸出管理規制へと発展した。「バイオセキュア法でも、対象の中国企業と取引した企業の製品は米国に持ち込めない輸入規制措置が導入される可能性も否定できない」と、より先鋭化する懸念がある。

     米国のバイオ関連の業界団体で製薬会社やスタートアップが加盟するバイオテクノロジー・イノベーション・オーガニゼーション(BIO)は当初、業界影響が大きいとみて法案に反対するロビー活動を展開した。ところが、議員側の主張に押されて先週、賛成へと立場を一転させ、同時に加盟企業だったウーシーは自主的に脱退した。

     もっとも、ライフサイエンス分野で最大規模の業界団体、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は静観している。磯部氏は「ビジネスにインパクトのある法案が提案されると、業界を代表する団体が意見表明するのが一般的」と話す。PhRMAの今後の動向も法案の行方を左右しそうだ。
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