• 資源循環
  • デンカ、PSのケミカルリサイクルプラント竣工
  • 2024年4月4日
     デンカはポリスチレン(PS)の資源循環にケミカルリサイクル(CR)技術で貢献する。千葉工場(千葉県市原市)敷地内に年3000トンの処理能力を持つCRプラントを竣工し、2024年度から使用ずみPSを受け入れ開始。3年目のフル稼働を目指す。PS資源循環を社会実装するには回収スキームの確立が欠かせないとし、市原市ポリスチレンケミカルリサイクルシステム推進協議会に参画。23年に協議会を通して実施した試験回収の課題を整理し、24年秋頃のプラント投入に向け協議を進める。

     デンカが新設したCRプラントは前段の「熱分解・回収工程」と、後段の「精製工程」に大別される。細かく粉砕された使用ずみPSを投入し260度Cの温度で溶融した後、600度Cの高温で熱分解することでガス化。さらに急冷することで「原料シロップ」と呼ぶPS原料のスチレンモノマー(SM)を含む液体を取り出す。この液体を蒸留塔で精製し高純度のSMを得る仕組みだ。

     こうして得たSMを重合プラントに移送し、バージン原料同様に重合してPSを生産する。CRは従来のマテリアルリサイクル(MR)では実現できなかった食品接触用途への再生材利用を可能とする点も特徴の一つだ。

     <一貫製造販売体制の強み生かす>

     デンカは原料であるSMからポリマー製品、加工製品まで一貫した製造・販売体制、いわゆる「スチレンチェーン」を敷く。この強みを生かして、再生材由来のシートや食品包装材を供給していく。ユーザーに対して環境価値を丁寧に説明し、用途開発を進める意向だ。

     熱分解工程はPSのCRで実績を持つ米アジリックス社(オレゴン州)の技術を導入した。デンカや東洋スチレンは自社開発も可能だったとするが、「PSがリサイクルできることを早く示したいという強い思いがあった」と東洋スチレン技術本部長の和田福明常務執行役員は話す。

     デンカ、東洋スチレンがPSのCRを検討した時期は海洋プラスチック問題が社会問題化した頃に重なる。自前主義にこだわらず「時間を買う」選択肢を採った格好だ。CRの社会実装という「トライアルでエキサイティングな事業」(同)が本格始動する。

     熱分解後に冷却してできる液体のSM含有率は70%。ここから限りなく100%に精製するプロセスは、SMメーカーであるデンカが自社のノウハウを用いる独自プロセスとなる。SMの収率は50%程度で、残り40%は熱源利用、10%のうち5%はガスのため燃焼処理、5%は残渣だが鉄鋼メーカーの一部原料に利用できないか検討中だといい、可能な限り有効利用する方針を示す。

    • 手前に見えるのが蒸留塔、分解炉は建屋内
      手前に見えるのが蒸留塔、分解炉は建屋内
     <端材に加え市中回収品も対象に>

     リサイクルプラントに投入する使用ずみPSはポストインダストリアル材(工場などで発生する端材)から始める。再生したSMを再びPSの原料に戻す「水平リサイクル」ができることを実証したのち、ポストコンシューマー材(市中から回収する使用ずみ品)へと回収対象を広げる方針だ。

     ポストインダストリアル材は出所が明確で回収も容易なため利用しやすいが、ポストコンシューマー材は異素材の混入や汚れなどコンタミがあり、中間処理が必要。だが、国内需要の60%を食品包装材用途が占めるPSのCRを社会実装する上で、ポストコンシューマー材の回収スキームの構築が不可欠だ。

     今後、デンカ、東洋スチレンは、地元市原市で中間処理の役割分担を明確にするため協議を行い持続可能なシステム構築につなげる。24年は回収対象を分別精度の高い製品に絞って全市展開し、回収拠点に協力できる流通企業と協議を重ね、目標量300トンのプラント投入を目指す。

     日本プラスチック工業連盟のポリスチレンワーキンググループは22年11月、50年にPS国内需要10%相当のケミカルリサイクルを目指すロードマップを発表した。23年実績ベースで5万トン超が目標値となる。

     デンカもまずは現有設備をフル稼働に乗せた上で、プラントを新設する構想も温めている。

     一方で、PSのCRをスケールアップする際の課題について、デンカ千葉工場次長兼東洋スチレン五井工場長の山口徳幸氏は「分解と精製をセットにしたモデルが適切かという検討が必要。オイルにできるとわれわれとしては理想だが、大型拠点にするか分散拠点にするかなど見極める必要がある」と語る。その上で「国の基本方針としてプラスチックの回収率を上げる前提があるので、大型ソーティングセンターで高度選別された使用ずみPSを調達先の一つとするなど、今後の取り組みに合わせて連携を取っていく」と説明した。

     経済産業省は23年3月に策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」に基づき、同年12月、サーキュラーエコノミー(CE)の実現を目指す産官学のパートナーシップ「サーキュラーパートナーズ」を設立した。同組織では地域循環モデル構築を一つのテーマに掲げ、地域の経済圏の特徴にあわせたCEの社会実装を目指す。市原市におけるポリスチレン資源循環の取り組みが一つの循環モデルとして先導役を担うことを期待したい。(山田和子)
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