• サムスンは中国に第8世代NANDの生産を移管し、韓国では第9世代最先端品の生産に乗り出す(韓国ファソンの同社半導体R&D・製造拠点)
      サムスンは中国に第8世代NANDの生産を移管し、韓国では第9世代最先端品の生産に乗り出す(韓国ファソンの同社半導体R&D・製造拠点)
     <中国半導体産業 ファンド起爆剤に/上>

     【上海=中村幸岳】中国の半導体市場はまだら模様が続く。昨秋以降、パッケージングなど後工程の堅調さに変わりはなく、メモリーはDRAMに続きNANDが復調。西安(陝西省)にある韓国サムスン電子の工場も足元高稼働を維持している。一方、中国勢のロジック半導体工場は回復が進まないようだ。ただ近く政府第3期ファンドによる合計6兆円規模の産業支援が本格化するため、現地材料メーカーの間では来年以降の景気本格回復へ期待が高まっている。

     サムスンは昨年、セル積層数236の「V8」と呼ばれる3D NANDフラッシュメモリーの生産を韓国から西安工場に移管することを決めた。

     西安工場はこれまで汎用品である「V6(同積層数128)」NANDの生産を担ってきたが、米国政府が昨秋、韓国や台湾のメーカーに中国工場への最先端製造装置輸入継続を認めたことで、より性能の高いV8品の生産移管が可能になった。今年から来年にかけて本格生産に入るとみられる。

     西安工場はサムスンにとって唯一の海外メモリー半導体工場で、グループNAND生産の4割以上を担う。材料を供給する現地日系企業も多い。

     あるサプライヤーによると昨年、同工場は稼働率維持に苦しんだものの、今年はV6品の生産が好調。少なくとも夏頃まで高稼働が続くとみている。

     同じ韓国のSKハイニックスも大連工場(遼寧省、2025年まで元の所有者である米インテルが運営)でNANDを生産するが、稼働率は相対的に低い。

     中国勢は工場ごとの違いが大きく、市場関係者によると80~90%の高稼働工場がある一方、3割以下の低稼働にあえぐ工場も少なくない。

     例えばNAND専業の垂直統合型デバイスメーカー(IDM)である長江存儲科技(YMTC、武漢)は足元、フル稼働を維持。

     一方、コロナ禍で不足したパワー半導体は、相次ぐ投資で早くも供給過剰が懸念される。ロジック半導体も昨年末に稼働が下がったまま回復しないようだ。

     しかし中国の半導体市場全体では今年、昨年比で生産改善が確実視される。背景にあるのは「大基金」と呼ばれる政府ファンドによる第3期支援の開始だ。ロイターの報道によると、3期ファンドの支援総額は3000億元(約6兆4000億円)と過去最大(1期は約1400億元、2期は同2000億元)となる。

     3期ファンドでは最先端の製造装置や材料に加え、人工知能(AI)向けNANDに使われるHBM(3D積層技術の1種)など、高速メモリー技術が重点支援対象となる見通し。

     先月、上海で開催された半導体関連の大規模展示会・セミコンチャイナに出展した中国企業の多くも「3期ファンドが始まるため、25~26年には景気が本格回復するだろう」と予測する。

     中国国家統計局によると、今年1~3月期の半導体生産量は前年同期比4割の大幅増となった。電気自動車や携帯電話向けが牽引役となった。

     ある日系材料メーカーの現地トップは「昨年は(業績目標の)下方修正を繰り返さざるを得なかったが、今年は売上高目標を達成できそう。問題は利益をどこまで確保できるかだ」と口元を引き締める。
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