• LiBパックの封止構造
      LiBパックの封止構造
     DICは、2030年度にも接着部を簡単に解体できる接着技術である「易解体性」をコンセプトとしたエポキシ系接着樹脂を創出する。誘導加熱(IH)などによる特定の温度条件下で解体が進む設計とし、リチウムイオン2次電池(LiB)など車載電池の解体・部材リユースに照準を合わせる。自動車メーカーやリサイクラーを巻き込んだ循環スキームのキーマテリアルとして組み込み、28年度のサンプル出荷の開始を目指す。30年代の実用化を狙って新規硬化剤によるエポキシ樹脂硬化物そのものの再生技術も別途開発中で、熱硬化性樹脂を多用する工業材・電材分野でマテリアルリサイクル(MR)ビジネスを立ち上げる。

     アカデミアとのオープンイノベーションを通じ、接着剤向けに易解体機能を持つエポキシ樹脂を開発する。分子構造のなかにトリガー因子を組み込み、IHやマイクロ波による非接触処理で内部発熱を起こす解体機構を採用。硬化物としての高次構造のコントロール技術により、解体性と耐熱性・機械強度とのトレードオフを解消するコンセプトを固めつつある。30年度の上市・量産化に向け、糊残りを抑えて剥離できるシステムとしての最適化を図っている。

     電気自動車(EV)市場の拡大にともない、30年代にかけて生じるLiB廃棄・再利用ニーズに照準を合わせる。すでに市場では正極材など主要部材のリサイクル技術の開発が加速するが、「厳重に密閉されたパックからモジュールやセルを取り出すことは容易でない」(アドバンストマテリアル開発センターの有田和郎シニアサイエンティスト)。エポキシ系接着剤が多用される大型パックのシール、もしくはモジュール固定で廃棄時の解体を前提とした製品設計を導入させ、「定置用蓄電池向けなどで高いセルのリユースニーズを狙っていく」(同)。

     DICは易解体性エポキシ樹脂をセル再利用のほか、筐体などのMRシステムの一環として組み込むことを有力視する。一方でエポキシ樹脂硬化物のMRも志向し、このほど成形体の繰り返し再成形を実現する硬化剤の基礎技術を確立。破砕プロセスなどで共有結合を切り、再プレスすることで架橋・成形を繰り返せる製品として、30年度のサンプル出荷と32年度の製品化を目指す。

     熱硬化性樹脂のリサイクルは一般に難しく、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でも炭素繊維のみの再生にとどまる。接着分野でもエポキシ樹脂が介在した場合は部材利用が難しく、実質的にシュレッダーダストとして埋め立てるほかない現状がある。

     有田氏は「易解体性エポキシ樹脂・再成形向け硬化剤をともに、ケミカルリサイクルよりも現実的なMR手法の要素技術として確立したい」と強調。静脈プロセスでのエネルギー使用量や二酸化炭素(CO2)排出量の少ないMR手法が優先的な社会実装テーマとみて、技術確立を急ぐ。
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