• メタノールからは既存技術でガソリンやジェット燃料、化学品原料へと誘導でき、多様な事業展開が期待できる(出光興産資料を基に作成)
      メタノールからは既存技術でガソリンやジェット燃料、化学品原料へと誘導でき、多様な事業展開が期待できる(出光興産資料を基に作成)
     <2050持続可能な未来へ eメタノール/上(その1)>

     メタノールが再び脚光を浴びている。化学品の基礎原料や燃料添加剤などとして用いられてきたが、昨今は二酸化炭素(CO2)をメタノールを介して化学品へ変換する「カーボンリサイクル」が注目を集め、工場などから排出されるCO2と再生可能エネルギー由来の水素を用いた合成メタノール(eメタノール)はエネルギーキャリアとしての期待も高まる。国内でも海外からの輸入やコンビナート単位での製造プロジェクトが立ち上がってきた。カーボンニュートラルの切り札として次世代合成技術の開発も熱を帯びている。

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     「eメタノールさえあれば、燃料にも化学品にも誘導できる。そのフレキシビリティがプロジェクトを進める要因だ」。昨春、チリのHIFグローバルと合成燃料の製造や国内導入で連携すると発表した出光興産。CNX戦略本部のバイオ・合成燃料事業の担当者はさまざまな選択肢を俎上に載せた結果、昨年末にeメタノールの調達や事業開発の検討へと一歩踏み込んだ背景をそう語る。

     HIFは米テキサス州でeメタノールの140万トン規模設備を立ち上げる計画。出光は2028年にも輸入し、まずは一定需要が見込める船舶燃料向けに供給する。その後は本命のガソリンやジェット燃料向け販売を想定し、「化学品も含めれば、需要のポテンシャルは計り知れない」として国内生産も視野に入る。

     従来の「グレー」メタノールは天然ガスや石炭から生産され、市場規模はおよそ1億トン。常温常圧で液体のまま輸送でき、インフラも整っているため使用しやすいのが特徴で、3分の2がオレフィンなど化学品原料、残りは燃料に利用されてきた。

     グレーでも市場は2~3%の安定成長が予想されるが、ここに地殻変動をもたらすのが「グリーン」なeメタノールだ。CO2そのものを原料利用するため、製品ライフサイクル全体の低炭素化に寄与するとして各所で利用検討が進む。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は50年の世界のメタノール生産能力が5億トンに達すると試算し、eメタノールがその過半を占める。経済産業省・資源エネルギー庁も原油代替の中間材として期待し、サプライチェーン構築の施策を検討する。

     企業もその調達や製造への進出に動き始めた。先行して取り組むのが三菱ガス化学。環境循環型メタノール構想を掲げ、水島コンビナートを候補地に26年度にも工場排出のCO2と水素から3000トン規模の実証プラントの建設を目指す。三井物産は昨年夏、デンマークのeメタノールの製造・販売事業に出資した。

     取り巻く環境がにわかに活気づくなか、「われわれへの引き合いも増えてきた」というのは三菱ケミカルグループ。メタノールからプロピレンを生み出すDTPプロセスで30年までに複数のライセンス獲得を目指す。アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国でeメタノールからポリプロピレンを製造する計画が第1弾だ。

     酢酸大手のダイセルにとっても原料メタノールの転換は避けられない課題に映る。外部購入主体で検討しつつ、自社排出のオフガス由来のCO2と水素を利用した「カーボンキャプチャ型メタノール」の基礎研究も並行させる。想定は自社原料の一部置き換えにとどまるが、「CO2有効利用の選択肢を広げるため、技術ポートフォリオに組み込んでおきたい」(同社)考え。

     市場形成の先陣を切るのが船舶への補油(バンカリング)だ。欧州では気候政策パッケージ「Fit for55」におけるEU排出量取引制度を今年から海運部門にも適用した。50年頃までに船舶から排出されるCO2を実質ゼロにしたい国際海事機関(IMO)も25年に規制を導入する模様。各社とも、まずは需要が確実に期待できる船舶向けに供給しつつ、ガソリンや化学品の市場の立ち上がりを待つ格好だ。
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