• 倉知取締役
      倉知取締役
     住友ベークライトは、情報通信分野の事業規模を2030年度に23年度比2倍超に引き上げる。今中期経営計画で高成長が見込める強化分野を高度情報処理など3つに絞り込み、リソースを集中する。人工知能(AI)やモビリティなどの需要増に対応するため、供給能力の拡充をグローバル規模で進めると同時に管轄地域についても最適化を図る。技術革新が急速に進むなかで封止材をはじめとする最先端の半導体材料や電動車向け部材の開発を進め、シェアを高めていく。

     倉知圭介取締役専務執行役員が、今年から2回の中期経営計画を経て、30年度に「情報通信事業の売り上げを23年度予想(2月時点)812億円の約2倍、営業利益は165億円の2倍以上を目指す」との考えを明らかにした。

     4月からスタートした3年間の新中期経営計画のなかで、情報通信分野ではデジタル化、グリーン化のトレンドに沿った高度情報処理とカーエレクトロニクス、モビリティを強化分野と定めた。この3分野のなかでも高成長が見込めるAI、5/6G通信、インバーター、車載インフォテイメント、モーター、電子制御装置(ECU)を注目6領域とした。成長の牽引役を明確にしたうえでリソースを集中し、技術開発も効率的に進める。

     これから新製品がもっとも増えるのはAI関連で、デバイスの仕様によってグレードアップが必要になるとみている。生成AI向けに急成長中の大容量高速メモリー(HBM)については次世代のハイブリッドボンディング(HB)材料を開発し、巻き返しを図る。大容量化のために積層数が増加傾向にあるHBMに対して、「樹脂メーカーならではの提案をしていく」(倉知取締役)。また先端のチップレット向けは、液状封止材から顆粒封止材への代替を進めていく。

     モビリティ分野でも新製品・新技術を増強する。25年度には戦略製品のモーター磁石固定用とECU、パワーモジュール、それにステーター向け封止材で売り上げ120億円超を目指している。電気自動車(EV)に代わってハイブリッド自動車(HV)の勢いが盛り返しているが、「ECU封止材にとっては追い風」。最近の傾向として熱や圧力などのデータを収集するセンサーの多数搭載があり、同社ではインジェクションモールドの適用実績がある。米マンチェスター工場ではエポキシ樹脂のインジェクション成形を始めた。

     30年に向けて半導体や自動車市場の拡大に十分対応できる供給体制を整える。世界の大消費地に生産と研究開発拠点を設けている同社は、ここ数年生産能力の増強を図ってきたが、各工場間での生産品のやりとりも始めることにした。拡張余地が乏しいシンガポール工場では供給の不足分を台湾とベルギーの両工場で補う。

     3月に新棟の竣工式を終えたばかりの台湾工場(高雄市)は封止材の生産能力が2倍になる。25年1月にも生産を始め、フィリピンとベトナム地域の需要にも対応することにした。またシンガポールから供給していた欧州向けの封止材は、ベルギー工場で地産地消を図る。ベルギー工場は旺盛なモビリティ需要に対して封止材生産ラインを増やし、23年から稼働を始めたところだ。

     こうした施策によってシンガポールには供給能力に余裕ができ、半導体やモビリティ大手の進出で高成長が予想されるマレーシア市場の強化に取り組むことができる。
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