• 三井化学の大阪工場のBPA設備
      三井化学の大阪工場のBPA設備
     <化学品市場総点検>

     フェノールの収益環境の悪化が止まらない。ここ数カ月だけでも、フェノールや誘導品のビスフェノールA(BPA)の世界生産能力の1割を超える設備が中国で立ち上がるなど多くのメーカーは限界利益も捻出できない状況だ。国内2社も内需中心の生産体制への見直しを迫られ、シンガポール事業から撤退した三井化学は年内のイソプロピルアルコール(IPA)増強を計画するなど誘導品強化に活路を見いだす。BPAの輸出比率が高い三菱ケミカルグループは需要に応じた生産・販売体制の立て直しが急務だ。

     <中国で相次ぎ設備立ち上げ>

     フェノールは自動車材料や建材などに幅広く用いられ、世界需要は年およそ1300万トン。それに対して製造能力は昨年、中国の浙江石化が40万トン設備を立ち上げるなど1500万トンを超え、ここ半年ほどでさらに万華化学や盛虹、瑞恒などにより計140万トンが上積みされるなど設備過剰が顕著になっている。足下のベンゼンに対するスプレッドは900ドルの低水準を余儀なくされ、世界の稼働率平均は7割台に落ち込むなど各社が悲鳴をあげる。「マーケットは、立ち上がったばかりの中国の新設備がフル稼働できないような異常な状態」(日系メーカー)だ。

    • 国内各社のフェノール関連品生産能力
      国内各社のフェノール関連品生産能力
     ボラティリティの大きさを嫌ってフェノールを再構築事業と位置づけた三井化学は、日中シンガポール3拠点のうち、原料を外部調達し地元に需要がないなど最も競争力を欠いていたシンガポール事業をイネオスに売却することを決断。中国石化との合弁会社こそ、最大消費地に立地し国有企業とのパートナーシップで高い競争力を持つとして維持するが、基本は国内中心の事業体制へシフトする。

     同社がフェノールの稼働率で8割超を維持できているのは誘導品事業が健闘しているからだ。メチルイソブチルケトン(MIBK)は3割近くを輸出するが、BPAやIPAはほぼ全量を国内で捌く。キュメンを分解した際に副生するαメチルスチレンは耐熱ABSなど向けに需要がタイトで、フェノールの減産下ではアセトンの需給も相対的に引き締まる。

     <三井、IPAの増強を計画>

     誘導品はいずれも能増も視野に事業強化したい考えで、実際、大阪工場のIPA6万トン設備は環境負荷の少ない溶剤として安定した内需を見込み、年末をめどにデボトル増強を計画。市況や需給に応じアセトンや誘導品のIPAと柔軟な生産バランスを追求する戦略だ。

     三菱ケミカルGは、フェノール誘導品のBPAが国内最大の22万トン能力を持つのが特徴。昨年までは他社の設備トラブルなどでベンゼンとのスプレッドが一時2400ドルまで高騰するなど高収益を謳歌したが、足下は1300ドル台に低迷し、低採算を余儀なくされる。能力過剰が続くことから輸出も当面は困難な状況で、「内需に即した生産販売体制を指向していく」(同社)。

     収益向上に向け打てる手は決して多くないが、そのなかでも数少ない選択肢の1つがグリーン化による付加価値向上だ。三菱ケミカルGは鹿島でケミカルリサイクルの油化設備の立ち上げを計画しており、再生原料をマスバランスで誘導するグリーンフェノールの市場供給が視野に入る。

     三井化学もバイオナフサを起点にした戦略を描き、フェノールチェーンではすでにフェノール、アセトン、BPA、αーメチルスチレンの4製品でISCC Plus認証を取得ずみ。23年度末までにエポキシやIPA)、MIBKを含む全フェノールチェーンの認証登録完了を視野にいれる。
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